共働き世帯にとって保育園や学童の運営など、子育て支援を担う自治体は頼りになる存在であってほしいもの。このたび日経DUALでは、読者に代わって、自治体の首長への突撃インタビューを開始しました。最初は東京23区に取材を依頼し、区長に質問をぶつけます。

今回は足立区。警視庁勤務から税理士という専門性の高い職業を経て都議会議員となり、その後足立区長に当選して現在2期目を務める近藤区長。足立区は「治安・学力・貧困の連鎖・健康寿命」という4つの課題に包括的に取り組んでいます。上編では「待機児童問題も大切だが、まずは貧困の連鎖を断ち切りたい」と語る背景を伺います。

近藤 弥生 区長

1959年東京・足立区生まれ。大学院卒業後、1983年から警視庁国際捜査課勤務。税理士を経て1997年に東京都議会議員に当選、2001年、2005年に再選されて3期を務める。2007年、任期途中で辞職し足立区長選挙に立候補し、当選。2011年に再選され、現在2期目。

「やむを得ない理由で働かなければならない」から「働く、働かないを選べる」へ

近藤弥生・足立区長
近藤弥生・足立区長

近藤区長(以下、敬称略) 日経DUALは共働き向けのメディアとのことですが、最初に申し上げておきたいことがあります。私自身は、父親が家庭を省みないという環境で育ったこともあり、昔から「夫を持って、子どもを持ってといった暮らしは自分にはできないな」と思うところがあり、これまで家庭を持たずに人生を歩んできました。ですので、「子育て中の気持ちはあなたには分からない」と言われればそれまでです。

 ですが、働くことだけにとどまらず、子どもを持った女性が社会参画する状況が整っているとは言えませんし、まだまだ社会の理解が足りないことは実感しています。

 そうした現状は、以前、警察官として働いていたときにも感じていました。保育施設の重要性をはじめ、女性が働くうえでの大変さも身近に感じています。またそれが、都議会議員に立候補した理由でもあります。

 少し前の話になりますが、都議会でのやじが話題になりました。私も都議会議員のときに、当時はまだそれほど大きな問題にはなっていなかった保育園問題、待機児童問題について取り上げたことがあります。やはり、自民党から「女性が子どもを預けて働くようになったから、子どもが悪くなった」「3歳児神話を知らないのか!」のようなやじが飛びました。

 議員の中にそうした考えの方がいるのは、今でも大きくは変わっていないと私は感じています。しかし、それに対して正面から「そういう考えは古い」「間違っている」と闘いを挑むのは不毛だと私は考えます。人の考えというものはそう簡単には変わりませんから。

 また、本当の意味で、男女の意識が完全に平等になるのは、遠い未来、男性が妊娠・出産できるようになってからではないでしょうか。やはり最終的には埋められない溝が存在していると思います。

 まずは「子どもを預けて、働かなければならない状況の家族がある」ことを、社会全体が認識すべきだと思います。そして、働くこと、働かないことが選択できる状況をつくることが大切です。