変化の少ないときにこそ、危機感を持つ
美しい時間にぼうっとしかけたとき、耳の奥でアラートが鳴る。「慣れ」という怠慢に落ちかける、一歩手前の警告だ。
経営者向けのセミナーで、繰り返していた自分の言葉を、あえて引っ張り出す。
「中途半端に食える時が、一番危ない」
企業は、なんとなく利益が出て会社が回っているときこそ、危ない。不安や危機が見えているときには、アンテナを張って懸命に改善しようとする。勉強も行動もする。しかし、安定すると「うまくいっている」というイメージで、仕事の綻びや環境の変化を見落としてしまうのだ。
それは、塾講師時代でも同じだった。クレームの種は、一見、穏やかな中に埋没している。塾にも、いじめは存在している。強烈な受験ストレスや嫉妬が、陰湿ないじめにつながりやすい。
「慣れ」からくる見落としは、ふり返りや情報共有の時間を、強制的に持つことで回避できる。学校では毎日のコミュニケーション以外に、月に一度は児童の情報交換のための会議を開く。また、「授業セルフチェックシート」を教員に渡し、学期に一回は書いてもらうことにした。「教室環境は整っているか」「授業のめあてを示しているか」「板書は分かりやすいか」……ベテラン教員にしてみれば大きなお世話だろうし、表立って反発する人はいないにしても、面白くないだろうなとは思う。それでも、チェックリストは自分のレベルを下げないための、ストッパーとして役立つ。
経営セミナーや社員研修で、こんな話もしていた。
今日が2015年3月5日だとしたら、ホワイトボードには「2014年3月5日」と大きく書く。受講者は、首をかしげる。去年の日付じゃないか。
「これは、1年前の今日ですね。皆さんは去年の今ごろ、どんな仕事に取り組み、どんな課題を抱えていたでしょうか。思い出してみてください」
読者の皆さんも、思い出してみてほしい。私は初めての卒業式を目前に戸惑い、来年度の校内人事に頭を痛めていた。昨年5月に行った140周年記念行事も、大きな課題だった。
ホワイトボードの「2014年」の「4」を「5」に書き換える。
「これは、今日の日付です。皆さんが思い出していた1年前から比べて、どうでしょうか。当時の課題は解決していますか? この1年で『成長したなぁ』という実感はありますか?」