妊婦さん向けの鍼灸院「天使のたまご」(東京都中央区)を経営する、藤原亜季さん。いつも明るくポジティブで、経営も順調、順風満帆に見えるものの、「本質がサービス精神旺盛な職人気質だったため、開業当初は経営者としては右も左も分からないような状態でしたし、産後半年での起業は育児と仕事の両立など、いくつもの山を乗り越えてきました」という亜季さん。どうすれば無理難題を可能にできるのか? 予想外の妊娠から今に至るまでの両立生活についてストレートに語ってくれました。


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大学卒業後、専門学校で学び直していた矢先の妊娠

藤村 妊婦専門の鍼灸院というのは珍しいですよね。起業しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

藤原さん(以下、敬称略) 大学生のとき、就職活動を通して、初めて自分の将来を真剣に考えたんです。「このまま就職していいのかな」って。それで将来の進路を探ろうと、バックパッカーで世界数カ国を旅しました。旅先での経験から、「自分の幸せの価値観は自分で決めていこう」「人に喜んでもらえる仕事で起業しよう」と考えるに至りました。

 大学卒業後は、内定していた就職先を断り、旅先で興味を抱いた自然療法を学び、アロマセラピストとして活動を開始。そうしていくうちに「もっと人の身体について学びたい」「リラクゼーションだけでなく治療のできるセラピストになりたい」と強く思うようになり、起業を先延ばしにして、鍼灸師になるために上京し、国家資格取得のために鍼灸学校へ通いました。

 それが! 3年生のときに思いがけず妊娠したんです。国家資格を取って卒業したらすぐに独立開業すると決めていたので「もうどうしよう」というのが最初の思いでした。でも、もともとポジティブな性格なので(笑)これにも何か意味があるんだろうと思いながら、学校に通い続けました。

 妊婦になって初めて分かる不調がたくさんありました。日々体はこう変化するのか、こんなマイナートラブルが出てくるのか…と自分自身で感じながら学べたことは大きかったと思います。臨床に当たる先生達に「こういうときはどういう鍼やお灸をしたら良くなりますか?」と質問しながら、自分の体を教材にして、妊婦さんにはどんな施術がプラスなのかを研究していました。

 卒業後に開業することは1年生のときから決めていたのですが、いざスタートさせようと思ったときに、「どうせやるなら自分にしかできないことをやりたい」と思って。それなら、まさに妊娠期間に自分の体で学んだことで施術したい、と妊婦専門の鍼灸院を開業することにしたんです。

―― 思いがけない妊娠が、今の事業につながったのですね。卒業や起業について「諦めよう」とか「延期しよう」とは考えませんでしたか?

藤原 周囲は専門学校も休学することになるのでは……と思っていたみたいですが、子どものせいで夢を諦めるのは嫌だったので、すべて予定通りに進めようと思ったんです。専門学校3年生の11月に出産し、2月に鍼灸師の国家試験を受けて、3月に卒業しました。そして、起業準備もすぐに始めて。当時は、突っ走っていましたね。

妊婦さん向けの鍼灸院「天使のたまご」代表、藤原亜季さん
妊婦さん向けの鍼灸院「天使のたまご」代表、藤原亜季さん