本能を研ぎ澄まし、子どもを産み育て、日常を暮らす

「家事塾」で床拭きの基本を学ぶ塾生達
「家事塾」で床拭きの基本を学ぶ塾生達

辰巳 私のことに引き付けて考えてもそう。家事や家のことって大変で面倒なイメージがまだまだあるでしょ。でも、そういうことに時間をかけることが、どれだけ自分を解放して、ラクにしてくれるか。そこにみんなが気づくにはもう少し時間がかかるのかなーと思ってます。

光畑 子育てをめぐる環境はずいぶん良くなってきていると思うけど、その一方で、「ラクならいい」という上っ面だけで通り過ぎている部分もあるよね。母乳なんて究極の効率化だと思うんだけど、そうじゃなくて「無痛分娩」とか「ラクに産む」には、みたいな方向が注目されている。それは自然な感覚を無視するような流れじゃないですか。

辰巳 大切なのは五感とか本能だよね。光畑さんは授乳服がトリガーになるって言ったけど、私にとってはそれが家事なんです。特に子ども達には「家事をして、体を動かして感じてごらん、体で考えてごらん」と言っている。掃除をする音、料理を作る匂い……そういうことを体に覚え込ませることが大切だと思う。そういう本能や五感を取り戻すのは、実は大人でもなかなか難しかったりするんですよね。

光畑 この間、電車で見かけた若い夫婦は、赤ちゃんがぐずっていてもお母さんはずっとスマホをいじっていてね。抱っこしないのかな? と見てたら、なんとベビーカーの雨よけみたいなカバーのチャックをシャーッて閉めちゃった。「えっ!」って。「抱っこしたら、泣きやむかもしれないのに。泣いてる赤ちゃんのカバーを閉めちゃうの? それってどうなの?」と。

辰巳 掃除一つとっても、感覚のずれは感じますよね。そんなに汚れてないのにもっときれいにしないと不安でしょうがない人とか。人が生きている限りは必ず汚れるし、ホコリも出るというのが受け止められないみたい。

光畑 なるほどねー。

辰巳 私の家事の最低基準は「死なない、病気にならない、近所に迷惑を掛けないこと」。それさえクリアできていれば、あとは趣味の領域だって思っている。そこが、もうラインとして見えなくなっちゃっている人が多くなってきたと感じるんですよね。

* 第3回のテーマは「子育てのロールモデルを持つ大切さ」「周りに頼ること」です。

辰巳 渚(たつみ・なぎさ)

お茶の水女子大学卒業後、出版社勤務などを経て、1993年よりフリーのマーケティングプランナー、ライターとして独立。2000年刊行の『「捨てる!」技術』(宝島社新書)は130万部のベストセラーに。現在は「家事塾」を主宰し、「家のコトは生きるコト」を提唱。他に子育て、ワークライフバランス、家づくりなど、多方面で活躍。3月中旬に『軽やかに美しく 暮らしを整える44の秘訣』(エクスナレッジ)を発行予定。高校1年生長男、小学4年生長女の母。

5月12日から、辰巳さんを講師として、半年かけて「自分らしい家事」を見つける少人数制「2級家事セラピスト養成講座」が始まります。場所は、東京・浅草の「家事塾」にて。お問い合わせは、info@kajijuku.comまで。http://kajijuku.com/

光畑由佳(みつはた・ゆか)

お茶の水女子大学卒業後、(株)パルコで美術企画、出版社勤務を経て、エディター、建築コーディネーターとして独立。1997年「産後の新しいライフスタイル」を提案する授乳服の製作を開始。お産・おっぱいをサポートする「モーハウス」代表として活動をスタート。「子連れスタイル推進協会」「快適母乳生活研究所」の代表も務める。大学生~中学生の3児の母。著書に『働くママが日本を救う! 「子連れ出勤」という就業スタイル』(マイコミ新書)。http://mo-house.net/

(ライター/工藤千秋、撮影/花井智子)