辰巳 幸い私は、おっぱいがよく出たし、もともと母乳で育てたいなって思っていたから、母乳が出ないストレスは経験していないんですよね。長男のときは子どもを外に出しちゃいけないと思い込んでいたから、もっぱら家の中で授乳していましたが、2人目のときは外にどんどん連れ出すし、もちろん授乳もしていました。こんなにいいものはない!って(笑)。

光畑 本当にそうよね。私も2人目のときに、「おっぱいって、すごい!」ってつくづく思ったもの。

辰巳 おっぱいをあげる時間が、幸せそのものだった。

家事やおっぱいがあるほうが、子育ては絶対にラクになる

東京・南青山にある「モーハウス 青山ショップ」。授乳のしやすさが追求された授乳服が並ぶ
東京・南青山にある「モーハウス 青山ショップ」。授乳のしやすさが追求された授乳服が並ぶ

光畑 おっぱいは「子育ての武器」なんだよね。私、“中央線事件”の後、授乳服を取り寄せたり、自分で作ってみたりして、それを着てみたら気分が180度変わっちゃったの。それまでだって子どもが負担だと思っていたわけじゃないんだけど、やっぱり仕事があると預ける手配とかあるわけじゃない。でも、授乳服があれば子どもと一緒に何でもできるし、どこへでも行けるっていう自信がみなぎってきたんだよね。

辰巳 分かる。でも、「おっぱいが武器」とか、「家のコトは生きるコトだ」って、誰も教えてくれなかったよね。

光畑 そう、「家事は大変だよ」「母乳で育てるのは大変だよ」ってばっかり。だからそれを早く終わらせてラクになろう、外注しようって発想になるんだけど、それは違うの。家事やおっぱいがあるほうが、子育ては絶対にラクになる。

辰巳 おっぱいをあげることが楽しかったり、気持ちよかったり。自分も赤ちゃんのときはおっぱい飲んでて幸せだったろうなという感覚とか。家事だって、大変なところもあるかもしれないけれど、掃除をしたらすっきりしたとか、お味噌汁作ったら喜んでもらえたとか。そういうすてきな体験が絶対あるもの。その万能感とか幸福感があるだけで、十分じゃないかと思うんだけど。

産み育てることは不幸ではなく、幸せな体験

―― 光畑さんは“中央線事件”の後、授乳服を着てどう変わりましたか?

光畑 授乳していることを全然気づかれずに、いつでもどこでも、おっぱいがあげられる。それってすごく自由なことですよね。私は割と自由に子育てしているほうだと思っていたけど、授乳服を着た瞬間に、「私でもこんなに我慢してたんだ!」と痛感しましたね。無意識に行動制限して、自分を縛っていた。じゃあ、他の人はどうなんだろうって思ったら、パルコ時代の同世代なんか、そもそも大多数が産んでなかったりして。

辰巳  今でこそ、仕事して子ども産むのが当たり前って風潮あるけど、当時はまだまだだったから。

光畑 「仕事」か「結婚・出産」かの二択で悩む女性がいるなかで、仕事をしながら子どもも産めたっていうのは、ものすごくラッキーで幸せなこと。それなのに、解決できない愚痴を言い合ったり、不幸自慢をしたりしているのは、もったいないですよね。

 産むことは決して不幸ではなくて、幸せなこと。子育ては幸せへの選択肢であると、もっとみんなに知ってもらいたいんです。そのトリガー(引き金)になるのが、授乳服だと。そう思ったのが、17年前です。

辰巳  そうね、17年っていうとひと昔だよね。光畑さんにしても私にしても、感じることが時代より少し早かったということ。現に光畑さんが17年前に感じたことが、今の時代にすごく必要とされている。時代が追い付くのに17年かかったということだよね。

光畑 本当にそうだよね。