「親になる喜びの根元にある、夫婦の土台づくりとは?」に引き続き、長期ファンドを運用するコモンズ投信(東京・千代田区)会長の渋澤健さんの新連載「渋澤 健 チェンジメーカー7つの感情」第2回です。「日本資本主義の父」と言われる渋澤栄一氏の孫の孫でもあり、長期的な視野で世界を洞察する傍ら、共働きで3児(14歳、13歳、11歳の男児)の父親でもある渋澤さん。この連載で取り上げるのは、儒教の経書「礼記(らいき)」にある「七情(しちじょう)」。七情とは、「喜・怒・哀・楽・愛・悪(お)・欲」という7つの感情を指します。毎回、ゲストの方にご登場いただき、共働き夫婦が生活や仕事のなかで巡り合う七情について深く考察していきます。今回のゲストは保育大手のポピンズ社長、中村紀子(なかむら・のりこ)さん、取り上げる感情は「怒」です。

中村紀子
株式会社ポピンズ代表取締役CEO

テレビ朝日アナウンサーを経て、1985年、JAFE(日本女性エグゼクティブ協会)設立、代表就任。87年、株式会社ポピンズの前身であるジャフィサービスを設立、代表就任。全国ベビーシッター協会副会長、内閣府、経済産業省評価委員会、厚生労働省女性の活躍推進協議会委員などを歴任。内閣府教育再生実行会議委員、内閣官房構造改革特別区域推進本部評価委員会委員、経済産業省独立行政法人評価委員会委員、環境省中央環境審議会委員、経済同友会幹事、パルコ社外取締役などを務める。ハーバード・ビジネス・スクール・オブ・ジャパン「ビジネス・ステイツ・ウーマン・オブ・ザ・イヤー」、(社)ニュービジネス協議会「アントレプレナー大賞 優秀賞」などを受賞。最近では米Forbes誌が選ぶ「Asia's Power Business Women 2014」や、「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2014」のアクセラレーティング部門ファイナリストとして表彰されている。

イギリス発祥のナニーサービスを日本社会に導入

 怒ったときって、どんな顔になるんだろう。今回のインタビュー会場に駆け足で向かいながら、ふと思いました。

 中村紀子さん。経済同友会や『ほほづゑ』という財界人文芸誌の同人としてお付き合いいただいています。キラキラと目を輝かせて満面にほほ笑みをたたえた中村さんが会に加わると、いつも雰囲気がパッと明るくなることを感じています。そのようなオーラを発する中村さんなので、怒った顔がなかなかイメージできないのです。

 でもなぜか、「怒」を内面に持っている方に違いないという確信があり、今回のインタビューをお願いしました。いろんな場面で、物事に動じないエッジが利いたご発言をお伺いしていますので。

 デュアラー(共働き)の皆さんの中には、中村さんが創業された株式会社ポピンズが提供する保育所など子育て支援サービスを利用されている方も多いと思います。女性の育児と仕事の両立を応援するために、イギリスで発祥した「ナニー」という「教育+ベビーシッター」サービスを1987年に日本社会に導入。当時は今以上に保育所が十分に整備されておらず、子どもを預ける時間の延長ができないなど、働くお母さんにとっては逆風の時代でした。

 ご自身がワーキング・マザーとして体験した、支援に乏しい環境に対する「怒」。そして、横並びが常識であり、株式会社など新規参入者が保育所をつくることを規制する「岩盤」との戦いを長年繰り返されるなかでの「怒」。これらが現在の中村さんの原動力ではないかと想定し、エレガントな社長室にお邪魔してお話を伺い始めました。

 「どうしようかな。今まで、誰にも話したことのないことを話しちゃおうかな」と中村さんが口火を切ります。

 「怒」というキーワードで中村さんのスイッチが入ったのでしょうか。やや想定外の話の展開を感じて、ぜひぜひ、とソファに座った私の体も前のめりになってしまいました。

左から、ポピンズ・中村紀子社長、渋澤健さん
左から、ポピンズ・中村紀子社長、渋澤健さん