「私の幸せは『成功』ではない。学び続けることができる今に感謝」

 「私って幸せでしょ」と公然の事実のように話を続ける中村さん。普通の日本人であれば、いかに自分が大変で不幸な状態であるかを嘆くことが自らの存在感を示すものだと思いがち。しかし、中村さんは明らかに違います。

 「そうですね。その幸せの秘訣とは何でしょう?」とお伺いしたところ、「それは、学び続けること。そして、学ぶためにはホンモノと接する必要があるの」というお答えが戻ってきました。

 成功することが幸せで、失敗することが不幸と思いがちですが、実はそうではない。学びを続けることが幸で、言い訳などをして学びをやめたことが不幸だという考えです。確かに「時間が無い」「意味が無い」などと言い訳して学ぶことに消極的な姿勢では幸せをつかめるとは思えません。

 そして、その「学ぶ」という姿勢を中村さんに教えたのは、官僚であったお父様。学ぶために最も必要であるホンモノの存在。それは親からの愛情ではないかと、中村さんのお話を伺いながら感じました。子どものころの中村さんを想像すると、かなりのオテンバだったと想像します。子どもの個性を尊重しつつ注がれる愛情は、人格を育成するうえで大切な宝物となったはずです。 

 ところが、国が決めた条例で画一化された日本の保育の常識は、子どもの個性を尊重する学びという視点を取り込むことに否定的でした。でも、中村さんは国が認めてくれなくても、できる範囲から「エデュケア」、つまり人間教育のエデュケーションと保育のケアの両面を提供するサービスに取り掛かりました。

クリックすれば即時に反応が返ってくる学習に、ホンモノの学びは無い

 子どもが自分の個性を生かして、自分の人生における運転席に座る主体性を養うために、中村さんは「過程や努力を褒めるべき」と指摘されます。つまり、良い成績を取れたのは「偉いねぇ」や「良い子ねぇ」と半ば誰かに褒められることを目的にした学びの結果ではなく、向学心や好奇心を持って自ら学んだ成果であるということを実感させることが大事なのです。

 また、「答えを教えることではなく、答えを出す方策や探す力を導くことが大事である」という中村さんのお考えにも私は賛同します。特に、全体の底上げがあった高度成長時代と異なり、現在は多様性が重要です。つまり、正しい答えではなく、正しい問いかけが大事な時代になったのです。

 ところが、今の日本の教育ではいまだ「正しい答え」を出した子どもに“受験の成功者”というラベルが貼られる傾向があると感じます。これは時代遅れの学びであると私は危惧します。

 一方、現在の子ども達の多くが育っている生活環境は“オンデマンド環境”です。しかし、クリックすれば、即時に反応(答え)が返ってくることがホンモノの学びにつながるのでしょうか。親の「正しい問いかけ」も試される時代になりました。

 どの時代でも、親は子どもへ「今日よりも、よい明日」を期待しています。私自身も3人の息子達が、中村さんがおっしゃるように「自分の好きなことを見つける。そして、始めたことを最後まで成し遂げられる」幸せな人生を送られることを切に願っています。でも、いつも彼らの目に映っているのは「怒」っている親の姿です。

 親の「怒」を内面に持ちながら、「演出」に努めて、子ども達にホンモノの「学び」を導く……。言うはやすく行うは難し、ですね。ホントに。

 でも、「ありの~ままで~♪、なんてウソよ」という中村さんのご指摘は、その通りかもしれません。親の学びも最後まで続くのです。

この記事の関連URL
株式会社 ポピンズ http://www.poppins.co.jp/