「演出」とは本当の気持ちを「隠す」ことではない

 「それにね、たくさんの『ありがとう』があったから、乗り越えられたの」とも指摘されます。確かに、演出する役者にとって観客からの拍手は何よりのモチベーションにつながるのでしょう。

 女子アナという「見せる仕事」を経験したからこそ「演出」という才能が芽生えたのかもしれません。しかし、中村さんがおっしゃる「演出」とは、本当の気持ちを「隠す」ということではない。もっと深い次元の心構えであると感じました。

 例えば、夫婦関係。結構、感情がむき出しになって衝突する場面もあるかもしれません。特に子育てに関しては対立が少なくありません。それぞれが育ってきた環境、価値観、そして仕事の事情が異なりますから。

 とはいえ、まるで「仮面夫婦」のように本当の気持ちを隠して、何もコトが起きていないように生活することが良い関係を導くとは思えません。

 一方、演出とは、内面にある心情の表現です。仮面をかぶって本性を隠すことが演出ではないのです。才能がある役者は、自身の内心に秘めている思いを上手に表現する演出によって、観客に感動を与えます。そして、感動は人を動かします。

 暗くて寒い逆境においても、心の中の温かい明かりによる演出で世を温めて、明るくするスイッチを入れることができる。演出とは夫婦関係だけではなく、仕事の関係においても大事な心構えである。そんなことを中村さんとのお話で気づかされました。