平日にぶらぶらする男性は「怪しい」か

 例えば、長期の育児休業を取得した男性について考えてみましょう。彼らは平日の昼間に地域で活動することになります。しかし、いざ公園に子どもを連れていくと、そこにはお母さん達ばかり。公園の隅でちょこちょこっと遊んで、急いで帰宅。これではせっかく育児休業を取得した意味がありませんね。多くの男性が平日の昼間の行動に居心地の悪さを感じます。これを単なる被害妄想で片付けてしまうのは安易な発想です。

 我々は「普通の男性」はフルタイムで働いているという社会的な「常識」を抱いています。そのため、平日の昼間にぶらぶらしている大人の男性を、私達は怪しいと思ってしまうのです。実際、事件のニュースを見ていて、犯人の男性が無職だったり、職を転々としていたりすると「やっぱり」と思う人は多いでしょう。「性別にとらわれない多様な生き方の実現」を達成するためには、こうした明文化されていない社会のルールに切り込んでいく必要があります

 いまの日本に「男性問題」は山積みです。しかし、だからこそ、改善していける余地が大きいとも言えます。現在、育児休業を取得する男性は2%程度しかいないので「変わり者」と思われてしまいます。ですが、これが10%に上がると、身近でも育児休業を取得する男性が目につくようになるでしょうし、20%にまで増えれば、育児休業を取得する男性が増えたと人々に明確に認識されるはずです。男性の育児休業取得が当たり前になるまでには時間がかかりそうですが、着実に一歩一歩進めていけば必ずイメージは変わっていきます。

目には見えない社会のルールに男女とも縛られている

 ともすると私達は、家庭の問題は自分達で解決できると考えてしまいます。もちろん夫婦での話し合いは重要です。しかし、それだけですべてを解決できるわけではありません。社会全体が男性と女性をどのようなものとしてイメージしているのかが、個々の男女の行動や意識を縛っています。男性学の立場から、こうしたジェンダーの問題を男性に当事者として考えてもらう工夫をしていくつもりです。

 最も大切にしたいのは、共働き世帯の男性が置かれている現実を正確に把握することです。仕事や家庭に関する議論は、原因は何か、どのような対策があるのかとすぐに話が展開する傾向があります。しっかりとした現状認識を欠いたままでは、議論が無意味なものになるばかりではなく、感情論へとシフトしてしまう危険も高くなるのです。男性の働き方を根本的に見直すために、なかなか変わらない男性の現状を冷静に捉える。「男性問題」を解決するための道は、ここからしか始まらないのです。