2014年9月に第1子を出産され、ママとなった寺川綾さんは、実は子ども時代からぜんそくを患っていたそうです。ぜんそくを乗り越え、ロンドンオリンピックで銅メダルを獲得した寺川さんと、小児ぜんそく・アレルギーの専門医である国立病院機構福岡病院名誉院長の西間三馨(さんけい)さんとの対談が行われた「小児喘息メディアセミナー」から、ぜんそくに負けず、前向きに生活を送るヒントが詰まったダイジェストをお届けします。

気合と気力で無理をする時代から薬で予防して続ける時代に

寺川綾さんはミズノスイムチームのアシスタントコーチ。水泳教室や講習会などで水泳の楽しさや喜びを子どもたちから大人まで広く伝えています。
寺川綾さんはミズノスイムチームのアシスタントコーチ。水泳教室や講習会などで水泳の楽しさや喜びを子どもたちから大人まで広く伝えています。

西間 ぜんそく治療には、ほこりやペットの毛など発作の原因となるものを排除する環境整備と、薬物療法、体力づくりが必要です。ぜんそくの子どもに運動をさせたいと思ったときに、水泳は発作が起きにくいんです。ぜんそく患者がオリンピックでメダルを取るのも、やはり水泳競技が多いですね。

寺川 私も、ぜんそく児には水泳がいいということで、3歳から始めました。気づいたらプールにいたという状況で、就学前にはもう選手育成コースに入っていました。

 湿度や温度が高いので、水泳はぜんそく患者に一番負担が少ないスポーツですが、選手育成コースは練習がハードで、発作が起きてしまうときもありました。練習を切り上げなければならないので、他の選手より、練習時間が少なくなるという、もどかしさもありました。

西間 当時の治療法は発作が出たら、対処するというものでした。今は練習する前に吸入しておくなど、コントロールをする薬が出ているんですが。

寺川 そうですね、当時は発作予防で薬を飲むということはなく、気合と気力で頑張るという感じでした。水泳以上に、冬場に行われる学校のマラソン大会などは本当にキツくて、でも、スポーツをやっている闘争心が出てしまって、ぜんそくで苦しいけど、“気持ちで勝ってやる”と思って頑張って走りました。

積極的な治療を進めたら、メダル獲得につながった

西間 確かに「根性、根性」でやるしかない時代もありました。しかし、ぜんそくの症状が出ていて、気管支が収縮したまま運動を続けて炎症を起こすと、余計に治りにくくなるのです。気温や湿度の低い冬場のマラソンは、ぜんそく児には一番向かないスポーツです。ぜんそくコントロールが完璧な状態で臨みたいですね。

 発作が起きたら止めるという治療法から、発作が起きないようにしようという治療法に変わってきたのは、2005年くらいからです。寺川さんは、いつからぜんそくコントロールができるようになったのですか?

寺川 なるべく薬は飲みたくないと思ってやってきました。私はアスリートとして、トレーニングで強くなっているのであり、薬のおかげにしたくなかったのです。

 2009年に平井伯昌(のりまさ)コーチ(北島康介さんら有力選手を指導)の下に移ってから、苦しまなくていい部分で苦しむことはないと、積極的な治療を勧められました。最初は今まで通り、薬は嫌だと言っていたのですが、「とりあえず使ってみて、嫌だと思うならやめていいし、自分が納得したトレーニングができて、結果もついてきたら、続ければいい」と選択肢を与えてもらい、ステロイド吸入薬を始めました。