病気の可能性を探る遺伝子検査はまだまだこれから
遺伝子検査の実情を見ていきましょう。
まず押さえておきたいのは、遺伝子検査には色々な種類があることです。みなさんはおそらく「健康な状態で受けて、将来病気が発症する確率を判定するような検査」をイメージしているはず。しかし、日本の医療機関で行われている遺伝子検査の大部分は、今のところ、そうしたものではありません。
件数の9割以上を占めるのは、ウィルスに感染しているかどうかを調べるための検査です。詳しい説明は省きますが、血液に含まれるDNA(の残骸)を調べると、そのウィルス(例えばエボラ出血熱なども)に感染しているかどうかが分かるのです。
残りのほとんどは、主としてがんの的確な診断を目的としたものです。がん細胞の遺伝子を調べることで、どういう種類のがんなのか、その後の症状はどうなるか、より効果的な抗がん剤は何か、といったことが分かるようになってきています。
件数はまだごく少ないながら、発症前の遺伝子検査も行われています。代表的なのは、アンジェリーナ・ジョリーも受けた遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)の検査です。
「HBOCの検査のターゲットは、BRCA1とBRCA2という2つの『がん抑制遺伝子』です。どちらかに生まれつきの変異があると、70歳までに乳がんは最大85%ほど、卵巣がんは60%ほどの確率で発症することが分かっています」と話すのは、認定遺伝カウンセラーの四元淳子さん(お茶の水女子大学大学院、人間文化創成科学研究科助教)です。
HBOCの検査はアメリカではすでにかなり一般化しています。しかし日本でこの検査を受ける人が少ないのは、一つには費用が20万〜30万円もかかることがあります。日本の健康保険は治療が対象ですから、発症前の検査費用は原則として自己負担となります。
付け加えるなら、この種の検査はHBOC以外の病気についてはあまり行われていません。DNAに刻まれた膨大な情報に途方もない利用価値があることも、それを役立てるための研究が急速に進んでいることも確かですが、取り組みはまだ始まったばかりなのです。