子どもの「なぜ?」と大人の知的好奇心に答える科学読み物シリーズ第1回。前編(「女優アンジェリーナ、遺伝子検査で乳房切除を決意」)に続いて、遺伝子検査の最前線に迫ります。

〜後編のポイント〜

■その病気にかかる確率が分かるような遺伝子検査は、今のところ遺伝性乳がんなど一部の病気について行われているだけです。

■インターネットで申し込める簡便な遺伝子検査は、「体質を知る目安」くらいに考えるのが無難です。

■遺伝子検査は急速に進歩しています。いずれは事前の検査を受けて対処することで、病気の苦しみを味わわずに済む時代が来るかもしれません。

病気の可能性を探る遺伝子検査はまだまだこれから

 遺伝子検査の実情を見ていきましょう。

 まず押さえておきたいのは、遺伝子検査には色々な種類があることです。みなさんはおそらく「健康な状態で受けて、将来病気が発症する確率を判定するような検査」をイメージしているはず。しかし、日本の医療機関で行われている遺伝子検査の大部分は、今のところ、そうしたものではありません。

 件数の9割以上を占めるのは、ウィルスに感染しているかどうかを調べるための検査です。詳しい説明は省きますが、血液に含まれるDNA(の残骸)を調べると、そのウィルス(例えばエボラ出血熱なども)に感染しているかどうかが分かるのです。

 残りのほとんどは、主としてがんの的確な診断を目的としたものです。がん細胞の遺伝子を調べることで、どういう種類のがんなのか、その後の症状はどうなるか、より効果的な抗がん剤は何か、といったことが分かるようになってきています。

 件数はまだごく少ないながら、発症前の遺伝子検査も行われています。代表的なのは、アンジェリーナ・ジョリーも受けた遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)の検査です。

 「HBOCの検査のターゲットは、BRCA1とBRCA2という2つの『がん抑制遺伝子』です。どちらかに生まれつきの変異があると、70歳までに乳がんは最大85%ほど、卵巣がんは60%ほどの確率で発症することが分かっています」と話すのは、認定遺伝カウンセラーの四元淳子さん(お茶の水女子大学大学院、人間文化創成科学研究科助教)です。

 HBOCの検査はアメリカではすでにかなり一般化しています。しかし日本でこの検査を受ける人が少ないのは、一つには費用が20万〜30万円もかかることがあります。日本の健康保険は治療が対象ですから、発症前の検査費用は原則として自己負担となります。

 付け加えるなら、この種の検査はHBOC以外の病気についてはあまり行われていません。DNAに刻まれた膨大な情報に途方もない利用価値があることも、それを役立てるための研究が急速に進んでいることも確かですが、取り組みはまだ始まったばかりなのです。