健康診断に遺伝子検査が組み込まれる

 いずれ遺伝子検査の守備範囲は大きく広がり、生活習慣病についても遺伝子と生活環境、双方の影響を踏まえた、より具体的な診断が可能になる……。四元さんはそう考えています。

 楽観の理由は、世界各国がこの分野の研究に力を注いでいること。重要な課題である患者のデータ収集に関して、国際的な協力が進みつつあることも明るい材料です。

 「将来的には健康診断に遺伝子検査が組み込まれるはず。その結果に応じて、受けたほうがいい検査や、どう生活を改善したらいいかについてアドバイスできるようになるでしょう。いきおい医療は病気の芽が出たら早めに摘む、芽が出る前に予防するという方向に大きくシフトするでしょう。予防の手段も、より有効で苦労を伴わないものを選べるようになると思います」

 例えば、飲めば病気を予防できる薬。最近、タモキシフェンというホルモン剤に遺伝性の乳がんの発症リスクを低減する作用があることが分かりましたが、今後もこの種の予防薬の登場が期待されます。

 将来的には発症リスクの高い病気に応じて予防薬を選べるようになり、病気の痛みや辛さを味わわずにすむ時代が来るのかも? 遺伝子検査と周辺の医療技術の進化の向こうに、そんな夢のような未来を想像することも、決して不可能ではなさそうです。

 四元さんが最後に釘を刺すのは、遺伝子検査に振り回されてはいけないということ。

 「検査を受けて乳がんになる確率が高いと診断されたら結婚できなくなるんじゃないかと、親御さんが心配されるケースがあります。そんな方に分かってほしいのは、誰だって何かしら病気の種を抱えているということです。今はたまたま乳がんの検査しかできないというだけのことで、いずれ遺伝子検査で将来を予見できる病気が増えたら、立場はみんな同じ。発症する可能性が高いと分かれば事前にそれなりに手を打つことができるという、ポジティブな面を見てほしいと思います」

(文/手代木 建)