生活習慣病になる可能性はまだ判定できない

 今のところ代表的な遺伝子検査が、遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)の検査であることには理由があります。それはHBOCの発症を決定づけるのは、基本的に一つの遺伝子だから。特定の遺伝子(BRCA1とBRCA2のどちらか)に変異があるかどうかに注目すればいいので判定がしやすいわけです。

 単一遺伝子病と呼ばれるこうした病気には、ハンチントン病やリ・フラウメニ症候群という遺伝性のがんなどもありますが、これらはむしろ少数派です。多くの病気では複数の遺伝子が発症に関与します。どの遺伝子の変異がどのくらい影響するかを見極めるには、十分なデータを集め、それを精緻に解析する必要があります

 「単一遺伝子病であっても、他の遺伝子や後天的な要因(生活環境や習慣)の影響を受けないわけではありません。実は遺伝子の変異にもたくさんのパターンがあるので、HBOCにもまだまだ研究の余地があります。それでもかなりの精度で発症確率を示せるのは、すでに多くのデータがあって解析も進んでいるためです」(四元さん)

 四元さんによると、数あるがんの中で遺伝性がんは全体の10%ほど。そのうちHBOC並みに発症確率を判定できるものは、今のところ5分の1程度にとどまるそうです。この分野の研究が比較的進んでいるがんであっても、現状は「まだまだ」なのです。

 これが糖尿病のような生活習慣病になると、遺伝子検査だけで将来の発症確率を判定するのはまず不可能。生活習慣病にも遺伝的な素因が関わるにしても、その人の生活環境、生活習慣の影響のほうがよほど大きいからです。

 「ある状態の遺伝子を持つ人が、どれくらいの期間、どのような環境でどんな生活を送った結果として、こういう症状を生じた」といった膨大なデータを集めることが、まずは必要。いずれはそれなりに確度の高い判定ができるようになるはずですが、まだしばらく時間がかかると思われます。