マンション内のコミュニティ形成が「経年優化」につながる

──マンションの住民同士のコミュニティについても、このところ取り組みに力を入れているようですね。

藤林 マンション内のコミュニティは、東日本大震災での経験によって考え方が変化した経緯があります。それ以前はマンションというとプライバシーが守られ、隣の人を知らなくても暮らせる点がメリットとされる傾向が見られました。しかし震災をきっかけに、住民同士が助け合うことの大切さが見直され、マンションにも交流を促す施設や空間が求められるようになっています。

 昨年竣工した「パークタワー東雲」では一定層毎にミーティグスペースやドッグラン、ラウンジなどを設け、いざというときにはそこを防災拠点として住民が集まれる仕掛けを取り入れました。この物件は湾岸タワーマンションにおけるコミュニティづくりの、われわれによる一つの答えと言えるでしょう。

「パークタワー東雲」にはドッグラン、ラウンジなども設けられている
「パークタワー東雲」にはドッグラン、ラウンジなども設けられている

 ソフトの仕掛けとしては、入居時に居住者同士があいさつ会を行う「パークホームズグリーティング」を開催しています。入居時に居住者に集まってもらい、自己紹介やゲームなどで顔と名前を覚えてもらうイベントです。あるマンションでは入居時にパーティを開いた後、共用部にデザイナーのクラフト作品を飾って「あなたも作りませんか?」と呼びかけたところ、クラフト教室に多くの住民が参加して盛り上がったそうです。住民同士が交流できるきっかけづくりをお手伝いすることで、より豊かなコミュニティが形成され、ひいてはマンション全体が住み心地のよい環境になっていく。それこそが私達が目指す「経年優化」の考え方なのです。

コミュニティの大切さを教えてくれたサンシティの住民活動

──東日本大震災の以前にも、コミュニティ形成に成功したマンションはあるのでしょうか。

藤林 住民同士のコミュニティがマンションの居住環境を豊かにすることを教えてくれたのは、昭和50年代に分譲した板橋区の「サンシティ」です。総戸数が1800戸を超える、当時民間としてはかなり大規模な開発でした。敷地の中央に広場を設けてそこから各棟にアプローチする配棟とし、広場には森をつくって住民が憩えるようにしました。また共用施設として各棟に集会室を設けたり、木工や陶芸ができるスペースも設置しています。

 このサンシティでは入居後に住民同士の交流が活発となり、住民自らがボランティアで森の手入れをしたり、毎年お祭りが開かれたりするなどコミュニティがしっかりと根付いています。入居当時にまだ小さかった子どもが成長して独立した後に、30代後半になって自分たちが子育てするために戻ってくるケースも多いそうです。住民による植樹などの緑の活動は内閣総理大臣賞を受賞し、その受賞パーティにわれわれも招かれました。コミュニティをつくって自分達の街を守っていくという、経年優化の考え方が間違っていなかったことを実感しました。

 こうしたコミュニティ形成を核とした街づくりの発想は、その後のプロジェクトにも引き継がれています。例えば武蔵小杉ではタワーマンションを中心に、サンシティとは異なる街づくりが進められていますが、その中で防災活動をはじめとした今の住民の暮らしに合う新しいコミュニティをつくる試みが進められています。

親子・家族のコミュニティの多様化にも対応

──コミュニティの1つ目である家族の交流に関しては、新たな取り組みなどはあるのでしょうか。

藤林 このところの傾向として、親世帯と子世帯が同じマンションに住む「近居」のケースが目立ちます。様々な間取りタイプを擁するマンションで、例えば3LDKに子世帯が住み、親世帯が1LDKに住むといったケースです。親子が近くに住めば子世帯の子育てに親が協力したり、親の体が弱ったときに子が面倒を見たりするといったこともしやすくなるでしょう。

 今後は分譲マンションだけでなく、親子のどちらかが分譲住戸でもう片方が賃貸住戸に住むといった、ライフスタイルにも対応していく必要があるでしょう。

 その他にも、様々なライフスタイルに対応できるように、パークホームズ駒沢大学ザ レジデンスでは可動間仕切収納をフレキシブルに移動させることで住戸内の間仕切りを自由に変更できる「カナウプラン」を導入したり、パークホームズLaLa新三郷では住戸内の家族のコミュニティをテーマとした住空間デザインコンペを実施しています。昨年の第8回受賞作品は同マンション内に実際につくり、分譲しました。住戸の中央に「広がる通り道」と呼ばれる広い共有空間が広がり、家族同士が気配を感じながら暮らせる開放的なプランです。今後も建築家や学生などの斬新なアイデアを幅広く取り入れ、実際のマンションづくりに活かしていければと考えています。

(文/大森広司、写真/石井明和)