共働き家庭の子どもは、両親不在の時間をどのように感じているのでしょう。DUAL世帯の子どもの思いを、同じように共働き家庭で育った著名人に語ってもらうというこの企画。前編「土地に育てられた幼少時代」に続いて、1月15日に『九年前の祈り』で芥川賞を受賞したばかりの作家・小野正嗣さんにご登場いただき、フランス留学中のエピソードや、4人の子どもを育てる小野さん自身の育児に関するお話を伺いました。

日経DUAL(以下、DUAL) 前編では、共働きで忙しかった小野さんのご両親が、家では子ども達とよく話をしていたこと、家の中で言葉が循環していることが大切だということを伺いました。そうした家族の在り方は、フランス留学中にも学んだそうですね。

小野正嗣さん(以下、小野) 8年ほど留学した際に”第2の両親”と言えるほどお世話になったのが、恩師である、大学教授で詩人のクロード・ムシャールとその妻のエレーヌです。

 留学2年目くらいにクロードと出会い、縁あってフランスのオルレアンという所に彼らが所有する大きな家の一角に、居候同然で暮らしました。家族の一員のように遇してもらいました。

 フランスでは共働きの家庭が多く、エレーヌも大学で留学生にフランス語を教えたり、市会議員として移民や貧しい方達の教育問題に取り組んだり……と忙しく働いていました。

 クロード自身、とても偉い学者さんなのに、「僕はいつも“エレーヌの夫”と言われてしまうんだよ」と、仕事で活躍する妻のことを話していましたからね。

フランスでも言葉が循環していることの大切さを再確認

小野 夫妻には2人の息子がいて、目が回るほど忙しく働きながらも、家族がそろったときには常に会話が流れていました。当時の僕にとって一番衝撃的だったのは、息子達がそれぞれに巣立っていった後も、しょっちゅう電話をかけてきていたこと。父親が出ると、まずひとしきり父親としゃべり、その後は「おふくろに代わって」と。そして、またひとしきり母親と話す。お父さん、お母さんそれぞれと平等にコミュニケーションを取るんです。話題も豊富です。

 互いを思い合う気持ちが強いだけでなく、全く照れないでその気持ちを伝えるのを見て、すてきだなと思いました

 日本では、子どもがおやじやおふくろと話していると、やれマザコンだとか、ファザコンだとか言われますよね。特に男の子がおふくろと話していると、恥ずかしいという風潮があるのがとても残念です。

 フランスで常に言葉が循環しているクロードの家族の中で生活していたので、親子の会話の大切さを文字通り、肌で感じました。