共働き家庭の子どもは、両親不在の時間をどのように感じているでしょうか。DUAL世帯の子どもの思いを、同じように共働き家庭で育った著名人に語っていただくというこの企画。今回は、1月15日に『九年前の祈り』で芥川賞を受賞したばかりの作家・小野正嗣さんが登場! 心に残るご両親の教えや生まれ育った土地から受けた影響などについて語ってくださいました。

お兄さんとは協力して両親の帰りを待った。芥川賞受賞作『九年前の祈り』は、昨年他界したお兄さんの死を意識して書いたものだという
お兄さんとは協力して両親の帰りを待った。芥川賞受賞作『九年前の祈り』は、昨年他界したお兄さんの死を意識して書いたものだという

小野正嗣
1970年大分県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程満期退学。パリ第8大学文学部博士課程に留学。フランス語圏カリブ海地域文学を研究。2001年『水に埋もれる墓』で第12回朝日新人文学賞、02年『にぎやかな湾に背負われた船』で第15回三島由紀夫賞、同年に第1回東京大学総長賞、13年早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞。15年1月15日に『九年前の祈り』で第152回芥川賞を受賞した。立教大学文学部准教授。

忙しく働く母親を喜ばせたい幼心からお手伝い

日経DUAL(以下、DUAL) 子どものころ、建設業で働いていたお父さんだけでなく、お母さんもフルタイムで働かれていたそうですね。

小野正嗣さん(以下、小野) おふくろ――「おかあ」と普段は呼んでいますが――は、とにかく働き者でしたね。僕が子どものころは、主に養殖真珠の作業場で核入れ職人として働いていたんですが、大きくなってからは、それ以外にも化粧品の販売、父や兄と一緒に出稼ぎに行った建設作業の宿舎での食事作り、そしてここ15年はヘルパーをしています。最近は、これは無償のものですが、地区の民生・児童委員の仕事をしています。

 こうした昼間の仕事に加えて、冬の夜にうなぎの稚魚漁に出て、卸業者に売ったりしていた時期もありました。そういうときには、仕事から戻って家族と夕飯を食べて後片付けをしたあと、防寒着を着込み、網とカーバイトランプを持って、寒い中、出かけて行っていました。

 今から考えてみても、本当によく働いていましたよね。兄も僕もそんな働くおふくろの姿を見ながら育ったので、母親とは働くものだと思っていました。

DUAL 小野さんは、家のお手伝いはよくされましたか?

小野 兄も僕もそれなりに手伝っていたとは思います。

 忙しく働きながらも朝食や夕食などはきっちりと用意し、おやじと自分の弁当、それから僕の田舎の小中学校には給食が無かったので、兄と僕の弁当を作るおふくろの姿を見ていると、えらいなあ、大変だなあって思いますよね。おやじも肉体労働で疲れているのは分かりますが、仕事を終えて帰ってきたら家事は一切しない。けれど、おふくろはフルタイムで働きながら、炊事、洗濯、掃除のすべてをしていたわけですから。少しでも母に協力したいというか、楽をさせてやりたいなと

 兄が洗濯物を入れて、僕が畳んだり、お風呂を交替で洗ったり。土曜日の昼間もきちんと用意してくれていましたが、食べ盛りですから、それでもおなかがすくとインタスタントラーメンを作って食べたり……。

 「やってくれたら助かる」と言われたくらいで、頼まれたわけではありませんが、手伝うとおふくろが喜んでくれるからうれしくなって、いつの間にか家のことを手伝うのが習慣になりました。

次ページから読める内容

  • 誰もいない家に向かって「ただいま」「おかえり」
  • “会話の貯金”で反抗期も乗り越えられる
  • 賢い人がいたらよく話を聞くこと、と教えられた
  • 留守の家に上がり込み、野菜や魚を置いていく隣人達

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