1月下旬、親子観劇にぴったりの舞台が2本登場します。1つは日本昔話をダンスで表現する『日本昔ばなしのダンス』(彩の国さいたま芸術劇場)。もう1つは明治の作曲家、滝廉太郎の青春を描いた音楽劇『滝廉太郎の友人、と知人とその他の諸々』(草月ホール)。どちらも以前上演され、好評に応えての再演です。

“日本昔話”と“文部省唱歌”という日本人の心の琴線に触れるテーマが、前者は身体表現、後者はせりふと音楽で鮮やかに描かれ、親も子も楽しめる作品になっています。

 日経DUALでは、『日本昔ばなしのダンス』の振付家・近藤良平さん、『滝廉太郎〜』の出演者・原田優一さん、和音美桜さんに、作品の見どころやご自身の親子観劇体験を聞きました。前編では幼いころ、南米で育ったという近藤さんに、今回の作品のお話、舞台を見る楽しさ、そしてご自身の親子観劇体験についても話を聞きました。

『ねずみのすもう』(2006)撮影:Arnold Groeschel
『ねずみのすもう』(2006)撮影:Arnold Groeschel

 “親子で楽しめるダンス”をめざし、2006年から不定期に彩の国さいたま芸術劇場で上演されてきた『日本昔ばなしのダンス』シリーズ(3歳児以上入場可)。日本を代表するコンテンポラリー・ダンスの振付家たちが工夫を凝らした舞台は、これまで多くの親子連れを魅了してきた。

 中でも今回上演する『ねずみのすもう』は、第一回公演で大好評を博し、日本各地の公立劇場や幼稚園などでも巡演。今回が待望のさいたま再演となる。太っちょねずみと痩せねずみが相撲をとっているのを見かけたおじいさんが、負けてばかりの痩せねずみにおむすびを作ってあげたことがきっかけでお金持ちになるという物語を、ダンスをはじめとする手法を駆使しながら展開。本作の振付家で、型に縛られない「何でもあり」のパフォーマンスで人気の男性ダンスカンパニー、コンドルズの主宰者・近藤さんに、創作のエピソードを語ってもらった。

撮影:松島まり乃
撮影:松島まり乃

近藤良平
ペルー、チリ、アルゼンチン育ち。男性学ランダンスカンパニー「コンドルズ」を主宰し、世界20か国以上で公演、ニューヨークタイムス他で絶賛される。第四回朝日舞台芸術賞寺山修司賞受賞。NHK教育『からだであそぼ』、NHK『サラリーマンNEO』「テレビサラリーマン体操」などでお茶の間でもお馴染み。東京スポーツ国体2013開会式式典演技総演出を担当。横浜国立大学、立教大学等で非常勤講師も務める。

——ペルーなど、南米3か国で育った近藤さん。子どものころ、日本の昔話にはどう触れていましたか?

 小学校に入るまでは皆無だったと思います。絵本は大好きだったけれど、スペイン語の本ばかりだったから、『おむすびころりん』のような日本の有名な話を見た記憶は無いですね。

 小学1年から3年まではいったん日本に帰ってきていて、そこではもっぱらアニメ番組『まんが日本昔ばなし』を観ていました。絵本のような絵柄で面白かったし、(教育的な内容だから)親としても子どもに見せたい番組的な空気がありましたよね。(声優を務めた)市原悦子さんの声をたくさん聞いて、あの番組の影響は一番大きいと思います。

——初めに劇場側から“日本昔話をダンスで”という依頼を受けたときには、どう思われましたか?

 できると思いましたよ。“子どもに見せる”だけでなく、“他の劇場でも上演できる、大がかりでない演出”にしようと思いながら、昔話の本をたくさん読んで素材選びを進めました。

『はなさかじいさん』(2008)撮影:Naoya Ikegami
『はなさかじいさん』(2008)撮影:Naoya Ikegami

 1回目の『ねずみのすもう』は、僕の劇団「コンドルズ」のメンバーに、大きい人と小さい人がいるからこの話にぴったりだと思って、それに決めました。2本目の『はなさかじいさん』は誰もが知ってる話を、ストーリーに忠実に再現してみたのだけど、セットが大がかりになってしまって、その後再演していません(笑)。3本目の『モモタロウ』はこれもみんなが知ってる話だけど、桃太郎ではなく鬼の視点で捉えてみました。だから1本1本、アプローチは違うんですよね。