「君の好きにしたらいいよ」は、妻に「寂しさ」を感じさせてしまう

 吉岡さんは母親になったばかりの女性に「言葉を取り戻す」ことを勧めます。もともと社会で活躍していた女性が「家に入る」と大人と言葉を交わす機会が激減してしまうからです。孤独や欲求を感じるけれども、なかなか言葉で上手に表現できないでいるので、フラストレーションがたまる一方です。妻のフラストレーションがたまると、それは、本人のためにも、子どものためにも、そして、夫のためにもなりません。

 多くの夫は、妻から「どう思う?」「どうしたらいいの?」と問いかけられると、何か解決策を求められていると思いがちです。しかし、妻が求めているのは夫からの「答え」ではなく、自分の気持ちに関心を向けて共有してほしいということであることが多いようです。

 共働きの場合でも、母親が子育てを一人で抱え込んでしまう傾向が少なくないと吉岡さんは指摘します。母親としての責任を自分が果たさなければならないと考えれば考えるほど、自身を苦しめることにつながっていきます。

 このように妻が仕事と育児の両立に責められた場合、夫は何をすべきなのでしょうか。

 「君の好きにしたらいいよ」

 これが、寛容で理解がある夫のベストアンサーだと思う男性が少なくないと思います。

 ただ、吉岡さんによると、これは妻が最も「寂しい」と感じるパターンだそうです。

 夫と妻。妻も夫と同様外で働いているにもかかわらず、二人の子でも放っておくと妻のほうが「育児と家事は私の仕事だ」と感じてしまう場合が多いようなので、要注意です。

 夫がすべきことは、「そうだね。君はどうしたいの?」と妻と気持ちを共有する姿勢をまず見せること。そして、家事も育児も「手伝う」のではなく自発的に「共に担う」という意識と行動が必要なのです。

 古き時代と異なり、三世代家族が常ではない都市化の生活になりました。出産と子育ての喜びを最大化するためには、「育児や家事を、すべて母親がやらなければならない」というマインドセットから、夫婦ともども解かれる必要がありそうです。

 吉岡さんは出産後にシングルマザーになり、複数の親しい友人達と共にお子さんを育てました。伝統的な家庭構造ではありませんでしたが、そこには、「みんなで育てた」という喜びが見つかったようです。 

 人々の生き方はそれぞれです。しかし、出産と育児の喜びを親が感じることが、子どもの健やかな成長、そして、豊かな社会へつながると思います。子どもへ、あるいは子ども同士の痛ましい事件のニュースが絶えないさなかで、私はそう痛感します。