保育園の用地獲得のために、不動産の専門家を臨時職員に
―― 保育所新設のための用地確保はやはり大変なのですね。
保坂 私や担当者がかかりきりになると、「あそこの土地はどうだ」「あの建物は空くらしい」と、みんな不動産屋状態になってしまう。そうしてもいられないので、保育園の用地獲得に関して、不動産の専門家を採用したほうが早いという話になった。2013年12月、非常勤職員として不動産業界出身のスタッフを採用しました。
―― その成果はいかがですか?
保坂 その非常勤職員が経営・資産運用という視点で、地主に提案してくれるようになりました。不安に思われる地主の方には、世田谷区が借りて世田谷区から事業者に転貸するという方法も提案するようにし、ようやく区内の南北の地域でも候補地が出始めたところです。駐車場跡地やビルの業態転換なども多いですね。
世田谷区は人口が「自然増」 子育て予算は10年間で約9割増
―― 1400人の人数増、4月に10園、6月以降に2園開園。保育園をこんなに開園するのは初めてのことですよね。
保坂 過去に遡れば区の公園などを使って、精力的に保育園を作った時期があったんです。「これでもう間に合うだろう」「しばらくすれば人口減少に転じるのではないか」というのが、私が2011年に就任して最初に聞いた説明でした。ところが就任後、予想に反して人口がまた増え、オリンピックに向けての不動産建設ラッシュで建設資材が不足し、工事が追いつかなくなったという不運な面もあり、保育待機児童は増えてしまったわけです。
―― 入園希望者を2008年から比べるとほぼ倍になっていますね。
保坂 世田谷区の特徴は5歳以下の児童が年々1000人単位で増えています。新たな子育て世帯が流入しているのではない。転入と転出を比べてみると、転出のほうが数が多いんです。よく調べてみると、子どもの人口が自然増であることが分かってくる。世田谷区は、転入して5年以内に子どもを持つ方が多いようです。子育て予算は10年前と比べると87%増えています。
―― 小学校の学童はどのような状況ですか?
保坂 学童の待機児童はゼロで希望者は全員入れます。児童館も25カ所ありますし、戸建てを改装しての「子育てサロン」「おでかけひろば」など、お母さんが子どもを連れて集まったり、預けたりする幅広いメニューを用意しています。児童館で乳幼児の育児講座があり、児童館デビューという言葉もあるくらいです。
―― 保育待機児童問題はともかく、子育てに対する支援の手が複数あるのが大きいのかもしれません。未就学児が1000人単位で増えていく自治体は他にあるのでしょうか。人口増に悩む自治体からすれば羨ましい状態ですよね。
保坂 都内ではあまり見られません。ということは、日本でもあまり見られない事例なのかもしれません。子どもが増える社会モデルを世田谷区がつくり、全国の困難を抱えている自治体につないでいけるといいと思っています。世田谷区だけが頑張り過ぎて、若いファミリーがこの区に集中してしまうというのもあるべき姿ではありません。他の所にも集まって、全体で増えるようにしないと。