日経DUAL編集部(以下、DUAL) 「褒める」ことよりも「勇気づける」ことの大切さをうたっていらっしゃいます。この2つの違いを教えてください。
原田綾子さん(以下、原田) かつて「褒める子育て」ブームが起きて、叱るよりも褒めることで子ども達の良いところを伸ばしていこう、という考え方が一般的にも広まりました。良い教育方針として、今も浸透していると思います。私自身もそれを以前は信じていて、小学校の教員時代には実践していました。
「褒める」ことの盲点、「勇気づける」利点
私は熱心に褒めることから始めました。例えば、ごみを拾った子に対して「えらいね、いい子ね、またやってね」と褒めます。するとその子は喜んで次もごみを拾います。褒めれば褒めるほど、クラスはピカピカになりました。褒めた効果が出たと思って、私もうれしかったんですよ。
しかしあるとき、私が出張で授業ができなかったことがありました。子ども達が帰った後の教室に行ってみると、たくさんのごみが落ちているんです。
そのときに私は気づきました。「ああ、子ども達は、褒めてくれる私がいなければごみを拾わないんだ」と。
子ども達がごみを拾っていたのは、褒め言葉というご褒美が欲しいからだったんですね。それは決して自主的なごみ拾いではなく、受け身的な行動です。「褒めて伸ばす」教育には、こんな落とし穴があるのだと分かったのです。
私は、褒めることの限界について考え始めました。褒めるとは、言い換えれば「できたときには褒める」「できなければダメ」と子ども達を評価するということ。「できるまで頑張れ」と叱咤激励を続けるということでもあります。これは子どもにとっても大人にとっても、本当は息苦しいことです。
私は「褒める」ことの裏にある評価の概念を捨てなければと思いました。そしてたどり着いたのが「勇気づけ」なのです。