『ほめるより子どもが伸びる勇気づけの子育て』の著者である原田綾子さんは、アドラー心理学を基本とした「勇気づけの子育て法」を実践。元小学校教員という経歴と、2人の娘を持つ母親としての気づきを基に、子育て講座や講演活動を中心に教育コンサルティングを行っています。原田さんのメソッドは、子育て世代の母親や父親だけでなく、小学校・中学校の先生からも広く支持を集めています。「褒めて育てる」よりも「勇気づけて育てる」ことに重点を置く、原田さんの子育て論について伺いました。

日経DUAL編集部(以下、DUAL) 「褒める」ことよりも「勇気づける」ことの大切さをうたっていらっしゃいます。この2つの違いを教えてください。

原田綾子さん(以下、原田) かつて「褒める子育て」ブームが起きて、叱るよりも褒めることで子ども達の良いところを伸ばしていこう、という考え方が一般的にも広まりました。良い教育方針として、今も浸透していると思います。私自身もそれを以前は信じていて、小学校の教員時代には実践していました。

「褒める」ことの盲点、「勇気づける」利点

 私は熱心に褒めることから始めました。例えば、ごみを拾った子に対して「えらいね、いい子ね、またやってね」と褒めます。するとその子は喜んで次もごみを拾います。褒めれば褒めるほど、クラスはピカピカになりました。褒めた効果が出たと思って、私もうれしかったんですよ。

 しかしあるとき、私が出張で授業ができなかったことがありました。子ども達が帰った後の教室に行ってみると、たくさんのごみが落ちているんです。

 そのときに私は気づきました。「ああ、子ども達は、褒めてくれる私がいなければごみを拾わないんだ」と。

 子ども達がごみを拾っていたのは、褒め言葉というご褒美が欲しいからだったんですね。それは決して自主的なごみ拾いではなく、受け身的な行動です。「褒めて伸ばす」教育には、こんな落とし穴があるのだと分かったのです。

 私は、褒めることの限界について考え始めました。褒めるとは、言い換えれば「できたときには褒める」「できなければダメ」と子ども達を評価するということ。「できるまで頑張れ」と叱咤激励を続けるということでもあります。これは子どもにとっても大人にとっても、本当は息苦しいことです。

 私は「褒める」ことの裏にある評価の概念を捨てなければと思いました。そしてたどり着いたのが「勇気づけ」なのです。