「ダイバーシティーって、正直何のためにやるのか分からない」という方はこの事例を見ていただきたい。戦前から続く大手化学メーカー、昭和電工。この重厚長大型企業が掲げるダイバーシティー戦略は、年齢や性差といった目に見える違いを尊重するだけの施策とは一線を画す、先進的な発想に基づいている。早くから定年退職者再雇用や障害者、外国人の雇用に取り組み、男性社員が9割という“男社会”において女性社員の採用・育成や男性の育児休業者アップに取り組んできた同社が、次に目指すものは何か。その戦略を探った。

昭和電工
石油化学、化学品、カーボン、セラミックス、アルミニウム各種製品、ハードディスクメディア、エレクトロニクス材料など多様な製品を幅広い産業分野に提供する化学メーカー。本社は東京都港区芝大門。1939年創業、グループ従業員数1万458人(2014年6月30日時点)。営業拠点の本支店4カ所、研究拠点3カ所、生産拠点である事業所15カ所のほか、世界各国にもグループ会社を展開。

 

マイノリティーや難しい状況にある人を助けようという発想のものではない

 「多様性」を意味するダイバーシティー。そもそも昭和電工では、2013年に65歳までの再雇用が義務化される前の2006年から、希望する定年退職者はすべて再雇用し、また法定雇用率を大きく上回る障害者雇用も行うなどしてきた。工場が海外へ進出していることもあり、国内の各事業所には外国籍従業員が多い。世間で声高に叫ばれる以前から実はダイバーシティーの歴史を持つ、草分け的存在である。

 その昭和電工で、「自分を活かす」「人を活かす」をキーワードに、それまでの取り組みからさらに駒を進めた「ダイバーシティ推進第二フェーズ」が2013年、スタートした。

 「当社では、女性や障害者、定年再雇用者、外国籍の社員の数をすべて足しても全社員数の15%にも届きません。ダイバーシティーとは、マイノリティーや難しい状況にある人を助けようという発想のものではないのです。多様な人材をすべて生かすのが目的。つまり自分自身の問題です。そのとき、“属性”は必要ありません。いかに自分を最大限に生かして働いていくかが問われるところなんです」

総務・人事部事業支援グループアシスタントマネジャーの伊藤さん
総務・人事部事業支援グループアシスタントマネジャーの伊藤さん

 担当の総務・人事部の事業支援グループアシスタントマネジャー、伊藤祈さんがこう語る通り、同社のダイバーシティー戦略では性別、年齢、人種、障害の有無といった属性を一切排除する。

 「ダイバーシティーとは何ぞやと悩む管理職には、『あらゆる人材をマネジメントしやすくする取り組み、自分が働きやすくなるようにする取り組みです』と説明しています。社内向けセミナーの講師は、ダイバーシティーの専門家ではなく、マネジメントやコミュニケーションの専門家を呼ぶんです」

 ここでいうダイバーシティーとは、マイノリティーだけを対象とする「人助け」では決してない。対象となるのは「自分」や「働き方」の変革。様々な能力やバックグランドを持つ社員一人ひとりが活用の対象となることで、組織全体がパワーアップしていくという考え方なのだ。