親子で「議論する力」を付けていこう

川合 本当の意味で国際人を目指すなら、まずは自分の意見をしっかり述べるメンタリティーを培う教育が大切だということですね

枝廣 それはとても大切です。例えば、国際会議などで非常に激しい議論をしていた2人が、休憩時間になると、仲良くコーヒーを一緒に飲んでいるというような光景は普通にあるんです。アメリカで「Hard on facts, Soft on people(議題については厳しく、個人に対してはソフトに)」という言葉を学んだのですが、それが、理想的な議論のあり方です。

 日本人の場合、自分の意見を否定されると、人格まで否定されたように感じる人が多いのではないでしょうか。だから、自分の意見を言わない、ちゃんとした議論ができない社会になっているんです。

 これは大人にとっても難しいことですから、子どもにも難しいことだとは思います。ただ、ちゃんと相手の意見を聞いて、そして自分の意見をもちゃんと言うということは、親子の間でもトレーニングできます。親が一方的に押し付けるのではなく、「お父さんはこう思うよ、キミはどう思うの?」というように話しかけることで、対話する力というのは家庭でも鍛えることができます

子どもに100%向かい合うことが国際人へと通じる

川合 僕は毎日の忙しさにかまけがちで、ともすると子どもとちゃんと向き合えていない気がするのですが、そんな人達へのアドバイスはありますか。

枝廣 わかります。だから私は「今はあなたのことを100パーセント聞いているよ」という時間をわざわざ分けて取っていました。

 長い時間が必要なわけではありません。時間の長さではなく、親の集中力が100パーセント子どもに向かっているということがとても重要です。そういう意味で、親がスマホなどに集中力を奪われがちで子どもと対話不足になったりしては危険だと思います。

川合 その子が将来、国際人としての資質を身に付けられるかどうかのカギは、親子の対話の時間にありそうですね。

枝廣 前にもお話ししたとおり、英語ができれば国際人になれると思っている人が少なくありませんが、それはイコールではありません

 私が思う国際人の要素というのは、自分の意見がちゃんと言える、人の意見をちゃんと聞ける、多様な意見を受け入れて議論ができる、日本の狭い社会のことだけではなく、世界各地の出来事に関心を持つ感性がある、日本での論調だけではなく、世界での論調も一緒に考える力がある、情報収集力がある、そしてビジョンに常に立ち返る能力がある……などたくさんあり、英語力というのはその中の1つにすぎないということです。

 私がとても大切にしていることに、何かを共に創っていく“共創”という概念があります。いくら英語だけペラペラしゃべれるようになっても、基本的に人の意見を聞けない、自分の意見をちゃんと言えないのでは、国際社会での“共創”の輪には加わっていけません

温暖化に高齢化、先行き不透明な経済…でも世界は変えられる

川合 最後に、今の小学生の子ども達へメッセージを送るとしたら、どんな言葉を投げかけますか?

枝廣 「世界は変えられる」ですかね。これから、地球温暖化も深刻化していくし、金融ショックもまた起こるかもしれないし、日本は人口が確実に減っていくし、東京五輪後の日本経済の先行きは不透明です。そんななか、悲観的になる子どもがいても不思議ではないと思うんです。「どうせ……」という無力感に襲われるかもしれない。だけど、だけど、世界は変えられるし、変える力をキミたちは持っている、一緒に変えていこう、ということを一番伝えたいですね。


 いかがでしたでしょうか。僕自身、お話を伺った後、子どもと100パーセントの集中力で向き合う時間を作るよう、意識するようになりました。これまで、いかに何かしながら接することが多かったか、ということですね。

 また、より俯瞰で子どもの様子を見守り、周りに流されるのではなく長期的な視点に立つことで、子どもに無理強いしたり、ヤキモキしたりといったことも少なくなると思いました。

 親が見るべき点は「今」のテストの点数や英語力ではなく、将来的に、その子が自分でテストの点数を上げたり、英語力を高めていける考え方や仕組みを育んであげることなのだと、あらためて思いました。枝廣さん、どうもありがとうございました!

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●近著(監修)
『アル・ゴア 未来を語る 世界を動かす6つの要因』

●著書
『朝2時起きで、なんでもできる!』シリーズ(アマゾン・Kindle版)
『細切れビジョンで、なんでもできる!―夢を実現する自分マネジメントシステム』
『明日7割忘れるあなたが1カ月で500語覚えるための英単語集』

●枝廣さんが代表を務める非営利組織
ジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS) 「持続可能で幸せな未来へ向かう日本の動きを、世界へ」というコンセプトで、世界184カ国(2014年12月現在)に向けて情報発信している