まあこれは、虐待の実数が増えたというよりも、人々がそれに敏感になり、通報が活発化したことによると思われます。2000年に児童虐待防止法が制定され、その第6条で児童虐待の通告義務が定められたのですが、この時期以降、件数の増加のスピードが増しています。よく「虐待の相談件数が過去最悪に」などと報じられますが、この数が増えるのは悪いことではありません。人々の道徳意識が鋭敏になったことの証でもあるわけですから。

全体の3分の1が「心理的な虐待」

 ところで、一口に児童虐待といっても、それにはいくつかのタイプがあります。上記の法律で規定されているのは、身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、そしてネグレクトです(第2条)。近年、虐待の相談件数が著しく増えているのですが、増加幅が大きいのはこの中のどれでしょう。図2は、1997年度と2012年度の内訳を比較したものです。

 相談件数の激増もさることながら、タイプの内訳も変わっています。以前は身体的虐待が半分を占めていましたが、最近ではその比重が減じ、代わって心理的虐待のウエイトが高まっています。2012年度では、全体の3分の1が心理的虐待です。

 子どもに暴言を吐く親が増えた、ないしはそれが積極的に通告されるようになったこともあるでしょうが、最も大きな理由は2004年の児童虐待防止法改正です。これにより、「児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(心身に有害な影響を及ぼす言動を含む)」も心理的虐待に含まれることとなりました。子どもの面前での暴力などを伴う深刻な夫婦げんかなども相当するわけです。