高学歴で就職活動を勝ち抜き、男性と肩を並べて働いていた“バリキャリ”の女性。彼女達が、出産を機に退職したり、子育て重視の“ほどほど”の働き方に甘んじているように見えたりするのはなぜなのか? 中野円佳さんの著書『「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか?』では、15人の女性へのインタビューを基に、出産後の女性をそのような状況に至らしめる社会の構造を「職場」「夫」「育児意識」などの様々な角度から分析しています。
 この本で取り上げられている「育休世代」とは、1999年の男女雇用機会均等法の改正、2001年の育児・介護休業法の改正を経て、育休などの制度が実質的に整った2000年代に総合職として入社した世代のこと。この世代の女性達は、出産後に仕事を辞める理由を「制度が無かったから」と答えられる世代ではありません。それゆえに、実際には外部からのプレッシャーや社会的な要因によりキャリアを諦めざるを得ない状況に追い込まれながらも、周囲には「自分で納得してその選択をしている」と思われている女性が少なからずいるという現状が、この本の中では明らかにされています。
 著者の中野さん自身も、まさにこの「育休世代」。07年に就職して12年に第1子を出産。妊娠9カ月のときに大学院の入試に臨み、育休を利用してこの研究に取り組んで書籍化を実現しました。現在は保育園のお迎えのため、毎日17時には会社を出る生活を送っているワーキングマザーです。
 この本を書こうと思った動機や出版後の反響、出産後の女性のキャリア継続のために企業や社会に求められる取り組みなどについて、中野さんのインタビューを3回にわたってお届けします。

思い通りに働けない“もやもや”を分かってほしい

DUAL編集部(以下DUAL) 中野さんは育休中に大学院に通い、修士論文を一般の読者向けに再構成する形で『「育休世代」のジレンマ』を出版されました。ただでさえ大変な出産前後の時期に、なぜこの本を書こうと思ったのですか?

中野さん(以下、中野) 私自身、妊娠前は男性社員と同じ仕事を任され、やりがいを感じながら働いていました。でも、妊娠が分かってからは様々な制約に直面し、異動も経験したことで、それまでと同じようなキャリア展望は描けなくなってしまったのです。

 独身時代には何でも語り合えた男友達にも「分かってもらえない」と感じることが増えていくなかで、 妊娠・出産により望んでいたキャリアを諦めざるを得なくなることを“女の問題”として片付けられてしまうことへのいら立ちや葛藤について、きちんと言葉にして伝えたいという気持ちが大きくなっていきました。

 男友達のみならず、夫や職場の上司、会社の経営者達に「私達はこういうことで“もやもや”しているので、これを読んでください」と手渡せるような本を作りたい。その思いから、論文としてだけではなく、一般の人にも読んでもらえるような形で世に出そうということを、当初から考えていました。