ケア責任を負う男女がリーダーになることが重要

DUAL これまで、女性の就労に関しては「高学歴で総合職として入社した」という層についての考察は少なかったのではないでしょうか?

中野 確かにこれまでの女性学では、男性並みに働くことができる“名誉男性”とも言える女性達のことは「女性の問題」と見なしてこなかった部分があります。

 “名誉男性”のような働き方ができる女性は限定されることから、出版後には「高学歴のごく一部の人のこと」との批判も寄せられました。

 しかし、高学歴で大企業への就職を果たし、子どもを持つこともかなえたこの層の女性達は、男性並みに働くことを前提とした企業社会のなかで「自己実現」と「産め働け育てろ」の2種類のプレッシャーに応えようとしている、いわば“優等生的”な存在です。

 日本政府は、指導的地位に占める女性の割合を2020年までに30%程度とするという目標を掲げています。そのためには、まずはこのような“優等生的”な立場にある女性が企業の意思決定に関われるリーダーになることが重要です。

 育児というケア責任を負いながら働くリーダーが増えれば、より弱い立場にある人も含めた女性全体が働きやすい社会を実現できる可能性が高まります。

DUAL “優等生的”な女性達と、それとは違う立場の女性達とが対立するという従来の構図ではなく、“優等生的”な立場の女性達がまずは上のポジションに就き、周囲に働きかけながら女性全体にとって働きやすい社会を実現していくということですね。

中野 これまでのフェミニズムではエリート女性を切り捨ててきた部分もありますが、その風潮も変わりつつあると思います。フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグの著書『LEAN IN(リーン・イン)』は、男性主体の企業社会に入った女性の視点から、男女平等を名実ともに実現することが企業の競争力を高め、家庭の幸福も実現するという提言をしたことで注目を集めました。

 また記憶に新しいところでは、国連において女性機関「UN Women」の親善大使を務めるエマ・ワトソンが、女性が一方的に自らの権利を主張するのではなく、男性を巻き込むことで男女それぞれがジェンダーにとらわれずに生きる社会の実現を目指そうというスピーチをしました。こういった男性を巻き込む「新しいフェミニズム」と呼べる動きが出てきているのではないでしょうか。

 ――続く第2回のインタビューでは、「育休世代」の女性達を苦しめる「職場」や「夫」の問題を中心に取り上げていきます。

中野円佳
1984年東京都生まれ。2007年、東京大学教育学部を卒業して就職。12年に第1子を出産。14年、立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号を取得。同年9月に『「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか?』(光文社)を刊行した。東大卒の母親のコミュニティー「東大ママ門」の立ち上げ人でもある。

(文/安永美穂)