DUAL 育休中に大学院で研究するのは大変だったのでは?

中野 子どもを産んだその月に入学してしまったので、産院でタブレット端末から履修登録し、産後2カ月目から月1回のペースで自宅のある東京から京都のキャンパスまで通う、という感じでした。子どもは両親に見てもらったり、京都に一緒に連れていって事前に何カ所か見学に行った上で「ここなら安心して預けられそう」と感じた保育施設の一時保育を利用したりもしました。

「自己実現」×「産め働け育てろ」のプレッシャー

DUAL 「育休世代」の女性には、“男並み”に仕事をすることでの「自己実現」と、母としての役割を求められる「産め働け育てろ」の2種類のプレッシャーがかかっているということが書かれていました。

中野 自分の父親がしてきたような「仕事」と、母親がしてきたような「子育て」を一人で背負おうとしてしまう”優等生”の女性は多いと思います。「育休世代」の女性達は、自分の親からもこの2つを両立する生き方を望まれ、それをプレッシャーに感じていることがあります。

 「親になる」ことは同じでも、男性にこの2種類の役割が求められることは少なく、女性だけがこのジレンマに苦しんでいるのが実情です。

DUAL 2000年代以降、育休などの制度は整ったにもかかわらず、正社員でも半数近くの女性が第1子の出産を機に仕事を辞めているという現実があります。著書では、これら「退職」グループの女性だけではなく、今後の状況によっては辞めるかもしれない「退職予備軍」にも目を向けています。

中野 出産後の女性の活用に関しては「辞めなければいい」という問題ではありません。仕事を継続したとしても、第一線で活躍できる働き方から外れると「ぶら下がり」と言われてしまい、私も育休からの復帰時には周囲からそう見られるのだろうなという戸惑いがありました。

 本のサブタイトルを考えたとき、当初は「出産後の女性はなぜ仕事を辞めるのか?」という案もあったのですが、この研究を始めてからの1年半で、「女性の活躍」を成長戦略の一つに掲げるアベノミクスの影響もあり、女性は出産後も仕事を辞めなくなってきています。ただ、 仕事を続けることはできても、責任ある仕事を任されず、昇進もできない状況に追い込まれている女性が少なくありません

 出産後に働き続けている女性が多い会社でも、その女性達に活躍するチャンスを与えていないのであれば、本当の意味で「女性を活用できている」とは言えないのではないか。そういった問題意識から、「女性活用はなぜ失敗するのか?」というサブタイトルにしました。

DUAL 出版後はどのような反響がありましたか?

中野 反響は女性からが圧倒的に多く、私と同じ「育休世代」の女性達からは、「自分が抱えていた“もやもや”を言語化してくれてありがとう」「仕事を続けられるかどうかは個人の問題だと思っていたけれど、社会の構造にも原因があるのだと分かった」といった感想が寄せられました。

 ですが、読んでくださったのは「育休世代」だけではありません。「これから産みたい」と考えている人や、私達の一回り上のアラフォー世代も含め、20代から40代を中心に様々な声が寄せられました。