イギリスもフランスも、出生率の改善に成功した
「人口を増やす方法ってないの?」
「それはある。でもほんとに増えるまでには、すごーく時間がかかるんだ」
一人の女性が一生に産む子どもの数を、合計特殊出生率(以下、出生率)といいます。終戦直後のベビーブームのとき4.54だったこの数字は、1970年代から2を割り込み、2005年には1.26となりました。先進国の場合、人口を維持できる出生率(これを「人口置換水準」といいます)は2.07ですから、人口が減るのも当然なのです。
1970年代の出生率低下は、他の先進国も同様に経験しました。以来、日本だけでなくドイツやイタリア、それに韓国も、1.5すら下回る低空飛行を続けています。しかし、ここで見過ごせないのは出生率を高めることに成功した国もあること。イギリス、フランス、スウェーデンなどは、2に近い水準まで回復しています。
それらの国に共通するのは、第一に多くの予算を割いて子育て支援を徹底したこと。加えて、男性が家事や育児に積極的に関わる傾向が強いことも大きな要因といわれます。逆に出生率が回復しない国々では、子育ての責任は国ではなく家庭が負うべきとする意識が強い、父親の権威が尊重される風土が根づいている、といった共通点があるようです。
日本政府はすでに出生率回復に向けた子育て支援に乗り出しています。目標は2030年までに2.07に戻すこと。仮にこれを達成できれば、2060年の時点で人口1億人を維持できることになります(以下のグラフ)。
「日本の出生率は近年じわじわ上昇しており、2013年は1.43。このトレンドが続くとすると2.07に到達するのは2053年頃です。これを20年早めようというのが政府の目論見ですが、それなりの予算を注ぎ込んで本気で取り組み、ワークライフバランスが改善されて男性の意識改革も進めば、不可能な数字ではないでしょう」(鬼頭さん)
鬼頭さんが明るい材料として教えてくれたのは、若い人の結婚に対する意識が肯定的に変化してきていること。結婚という束縛を脱して手にする自由が本当の幸福につながるのか…? そんな疑問が広がりつつある今の流れは、生涯未婚率の低下→出生率上昇という気運を高めるかもしれません。
世界人口増加+日本人口減少で、日本社会はどうなる?
「日本はこれからどうなるの?」
「人口が減る日本はこれから、色々な問題に直面する」
仮に政府の目標通り、2030年までに出生率2.07を達成しても、人口減少は2090年代の半ばまで続きます。出生率の低下からほぼ40年を経て実際に人口が減り始めたことからも分かる通り、人口変動の向きが変わるまでには長い時間がかかるのです。
世界人口増加と日本人口減少が同時に進行する時代…今の子ども達が大人になっていくこれからの30年を展望すると、実はいくつもの不安材料が浮上します。
世界的な資源と食糧のひっ迫もさることながら、気掛かりなのは日本経済のパワーダウンです。その国の経済成長は人口に深く関わります。多すぎると食糧不足、労働力過剰といった事態を招くにしろ、その国の経済は人口が多いほど活気づくのが普通。目覚ましい経済成長で世界の注目を浴びる国は、ほぼ例外なく人口も目覚ましく増えています。高度経済成長期の頃の日本もそうでした。
つまり、今と同じ生活水準を保つには人口減少を補う経済成長を遂げる必要があるということ。「しかし、今の枠組みでそれができるかは少々疑問です。産業界全体の構造改革、一人ひとりの労働生産性向上だけでなく、これまでの常識を覆すくらいの技術革新が求められます」(鬼頭さん)