文明が成熟(限界に直面)すると人口増加はストップする

「でも、人口の増加はいつまでも続かない。文明の成熟がストップをかけるんだ」

「ブンメイのセイジュク…?」

 以下のグラフは世界人口の推移を示したものです。右肩上がりどころか青天井で増えていきそうに見えるのは、時間軸が1万年と長いせいで、ここ数百年の急増がことさら強調されているため。必ずしも一本調子で増え続けてきたのではなく、その勢いは波が押し引きするように変化してきました。

 「いずれにしても、人口増加がいつまでも続くことはありません」と話すのは、上智大学経済学部の鬼頭宏教授です。

 「その文明が養える上限に達したら、人口は停滞状態になるか減少に転じます。人間における個体数の減少は、いわば文明の成熟に伴う必然的な現象なのです。もう一つ言えば、人口増加が続く局面は生産量と消費量がバランスを欠いたイレギュラーな状態です。長い目で見れば人間も他の生物と同様、両者が釣り合う方向に向かうと考えられます」

 そのことは日本の人口推移の歴史からも読み取れると、鬼頭さんは言います。最初の人口増加は弥生期、稲作が伝わったことがきっかけ。その勢いは平安期から鎌倉期にかけて落ち着き、室町期からの市場経済化とそれに続く稲作の進歩を受けてまた増加に転じます。その後は江戸期後半に減少、明治期の開国による経済活動の拡大でまた増加…という具合。

 日本の人口は文明システムの成熟(あるいは限界に直面したこと)がもたらす人口停滞と、ブレークスルーを経た新システムによる人口増加を繰り返してきたのです。

国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2010)」より環境省作成
国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2010)」より環境省作成

現代日本の人口減少、最大の要因は「晩婚・非婚」

「今、日本の人口が減っている一番の要因は、結婚しない人が多いからなんだ」

「僕も大きくなったら結婚して人口を増やすよ!」

 時間的視野を狭めて、18世紀以降の人口動態に注目すると、先進各国に共通する現象があることに気づきます。それは「多産多死」(出生率と死亡率がともに高水準)の状態が、社会が豊かになるにつれ「多産少死」(出生率は高いまま死亡率が低下)へ、次いで「少産少死」(出生率も死亡率も低下)へと変化することです。近年、この現象は新興諸国にも波及しています。

 死亡率は医療や食生活の改善、水道などのインフラ整備によって低下します。出生率が高いままなら、人口は当然急増。昭和の戦前期はまさにこの状態でした。日本が今、極端な人口減少に見舞われつつあるのは、その後の出生率低下が激しく、しかもなかなか上向かずにきたためです。

 今考えるとちょっとびっくりすることに、その背景には政府が人口増加を抑えようとしていた事実があります。終戦後は食糧不足と労働力過剰のため、1970年代以降は問題視され始めた世界的な人口爆発に歯止めをかける(新興国に模範を示す)ために、政府は国民に人口増加の抑制を訴えてきました。

 「もっとも、それが今の少子化にどこまで影響したかは疑問です。なぜなら結婚した人が産む子どもの数は、1970年代の初めから今日までほとんど変わっていません。出生率が下がった根本的な原因は、晩婚化と生涯未婚率の高まりに尽きます」(鬼頭さん)

 では、どうして日本人は結婚に消極的になったのでしょう。鬼頭さんがまず指摘するのは、結婚と出産(子孫を残すこと)への義務感が薄れたこと。加えて、現代文明の行き詰まり(世界と日本の将来への漠然とした不安感)も、出産に直結する結婚を避けようという意識につながったのではないか、と言います。

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