多様な生徒達が、徐々に1つの価値観をつくり上げていく
桑原 特にここ5年間で、生徒自身も保護者も、随分変わった気がします。2003年当初は、日本で他の高校へ進学したがる生徒と親を、こちらから口説きに口説いて受験してもらうという状態でした。しかしその後はだいぶ変わり、今は、自ら海外で学びたいと希望する生徒が増えてきています。
現在、面接以外の試験は、英語で行うようになっています。保護者も、昔は国際バカロレアの説明からしなければならない状態でしたが、現在では基礎知識を持ったうえで説明会に来られますね。
小林 当校の場合、完全な新設校に飛び込んで来るような生徒達ですから、いい意味で色々ユニークです。私が話すより、彼らに語らせたほうが、説得力があるかもしれませんね。実際、開校式では生徒達によるセッションが最も好評でした。
多様な価値観を持ってオープンに考えられること、そして、問題設定能力の育成を大切に考えていますので、試験で論文は必ず書いてもらっています。「~たら」「~れば」で書くのでなく、自分の経験の中で、どんな小さなことでもいいので、経験を踏まえて書いてもらうようにしているのです。
中学3年生ですから、語れる経験則を探すのがまず大変ですが、でも、日本の生徒の答案も、びっくりするような内容が書かれています。読むと、日本の生徒も捨てたものではないと感じます。
ある企業の方々が学校の見学に来て、感想文を書いてくださいました。その中で「ISAKでいう自主性、主体性というのは、声高に自分の意見を主張することではない。これだけたくさんの異なる文化圏から生徒達が集まっているにもかかわらず、1つの価値観、コミュニティーをつくり出している」と。まさにこれだと思いました。
「私達が、学校のためにできることは?」と、問いかけるISAKの保護者
参加者 両校に通わせている子どもの親は、どんな方がいらっしゃるのでしょうか?
小林 建学のミッションを共有していただくためにも、実は保護者にも「子どもをなぜ入学させたいのか」のエッセーを書いていただいています。日本語でも大丈夫です。ただ、入学後のコミュニケーションは英語が主になります。
2014年8月15日の入学式のとき、「学校のことで、何か質問はありますか?」と保護者に投げかけた際、保護者の方からの最初の発言が、"What can we do for you?"でした。日本の保護者による質問でした。「何かしてください」でなく、「学校のため人、保護者として何かできることはありますか?」という問いをいただき、私達は大変勇気づけられました。
桑原 当校は、ドメスティックな保護者が多いですね。初期のころですが、ニュージーランドの学校現場からクレームが来たことがあります。「『うちの子にきちんと食事をするように伝えてください』といった日本の保護者からの私的なメールや電話に困っている」というのです。「こんなことをするのは日本の親だけだ」と。グローバル化には日本の保護者の教育も、欠かせないのかもしれません。
―― グローバル化の一方で、日本人ならではのアイデンティティーや、日本の教育ならではの素晴らしさもあります。ISAKでは、それをどんなふうに伝えているのでしょう?
小林 おっしゃる通りです。日本の理数教育の素晴らしさは世界で定評がありますし、また、しつけという面では、中近東の王族が、子女を現地の日本人学校に通わせているという話を聞いたことがあります。きちんとした礼儀を身に付けさせるためだそうです。
日本にある学校として、多様性は大切にしながらも、どうやったらそうしたいい面を伝えることができるか考えています。
例えば、校舎の掃除はすべて全生徒の仕事にしています。実は、生徒がトイレ掃除までも全員で行うという文化は、世界的には少数です。自分で使うところは自分で掃除をするから、日本はこんなに清潔だともいえるのではないでしょうか。小さなことですが、掃除という文化は大切にしたいと思っています。
インターナショナルスクールというと、土足で校舎に上がるというイメージがありますが、当校では土足厳禁です。茶道、華道といった文化の他に、靴を脱いでそろえて校舎に入る、といった日本で生活してこそ身に付く良さを一人ひとりに伝えていければいいなと思っています。
(ライター/阿部祐子、撮影/鈴木愛子)