子ども達は自ずと「国際問題」に遭遇することになる

小林 多様性ということでいえば、いくつかエピソードがあります。ISAKは学校そのものの開校は2014年なのですが、それ以前にも中学生に向けたサマースクールを5年間行ってきました。

 2年前のことです。チベット難民キャンプから奨学金を受けてやってきた生徒が、中国の生徒と同じクラスになりました。寮でも同じ部屋になり、仲良くやっていたのです。そのチベットの生徒が「みんなの前でぜひ話したいことがある」と言うので、彼のために時間をつくりました。彼はみんなの前で、チベットの僧侶が、中国の政策に抗議して焼身自殺をした事件の話を始めました。そして「中国政府は悪だ」と糾弾したのです。

 中国から来た生徒はびっくりしていました。まず、友達からそんなことを言われると思っていなかった。しかも、学校で習った内容と違う。「チベットという国は存在しない。彼の言っていることは嘘だ」と。これはもう、正解とか間違っているとかいう世界ではありません。そのあと彼らは、2人で長い時間、話し合っていました。

 それによって中国国内に情報統制があること、チベットが独立したいのでなく宗教の自由を認めてほしいのだということを共有しました。こうして直接話し合うことで、子ども達は大人から教わること以上のインパクトを持って、多様性を知るのです。

寮で日・中・韓の生徒が領土問題について討論、時間が来たら「ノーサイド」に

桑原 当校でよくあることですが、日本、中国、韓国の生徒が一緒の部屋になれば、寮での話題は自然と領土問題になります。この3人だと日本の旗色が悪いのですが、ベトナム人の生徒が加わるとまたちょっと話が変わってくる。

 彼らが偉いと思うのは、「議論は1時間まで」といったルールを決めて、その時間内は徹底的にやり合う。正しいとして習ってきたことが国によって異なるので、すぐに結論は出ないことを自分達でも分かっているのです。だからその後はノーサイドにして、そこから先は普段通り苦手な教科を教え合うなど、友達同士として付き合うのです。

 これはまさに現代社会の縮図で、問題があったときどう接して解決すればいいかを彼ら自身が実践しているとも言えます。こうした経験は、グローバルな環境が無いとなかなかできません。

 寮は4人部屋なのですが、「仲の悪い生徒をあえて同じ部屋にする、仲良くなったら離す」と生徒達に宣言しています。そういう意味では、寮は学校とはまた違った教育の場になっていますね。

小林 やはり寮生活であることが大きいですよね。座学でリーダーシップと言われてもなかなか理解できない。

 ISAKは生徒を12人ずつの「ハウス」に分けて、その中で自治をさせています。「ある女子生徒のシャワーが長くて、他の生徒が迷惑している」「お風呂に入らない男子生徒がいて臭い」といった細かなことも含めて、掃除や洗濯などの作業について、自分達でルールをつくっていきます。

 これは社会に出れば当然のことです。でも通常はどうでしょう? 学校では「ルールを守れ」と言い続けて、卒業して社会に出ると突然「はい、自由ですよ」と言う。突然、自己責任でと言われても、無理があると思うのです。寮において、社会で要求されることを小さなことからやっていくことには意味があるのです。

桑原 おっしゃる通りだと思います。当校の寮もハウス制度を取り入れています。イギリスの学校に多いと思うのですが、私は『ハリー・ポッター』を見て、「あのシステムがいいのでは?」と思い、校長に提案しました。

 1期生の中に、校則破りばかりする韓国人の男子生徒がいたのですが、あるとき、彼をハウスのキャプテンに任命したんです。この方法はとてもうまくいきました。それまでは、友達みんなを引き連れて門限を破って遊びに行ってしまうような生徒でしたから、それをいい方向に変えると、彼のリーダーシップが本当にいい方向に発揮されたのです。