「母の友達に連れていってもらって。今でもはっきりと覚えていますが、シュヌルル王子の声は山田隆夫さんが演じていらっしゃいました。そのときは、物語がどんな感じだったかというより、人形が動いていることが気になって、どうやっているのか知りたいと思ったことを覚えています。最初のシーンの薄暗い街の石畳の景色から、人形が動いている。人間でもないし、粘土でもない。すごく仕組みを知りたくなって、連れていってくれたおばちゃんにパンフレットをねだったんです。それで“人形アニメーション”というものを初めて知ったんですね」

――記憶に残る、とても印象的な映画だったのですね。

 「そうですね。子どものころは『くるみ割り人形』の物語の美しさや残酷さはよく分からなかったけれど、人形アニメーションに興味を持ちました。真賀里文子さんという方が人形アニメーターをされているんですけど、例えば戦争のシーンでは何百匹というネズミがいるんですが、それを1コマ1コマ撮っていくために、1フレーム撮ったらちょっとずつ動かして、それを連続していくという作業を一人でされるそうです。本当に気が遠くなる作業ですよね。真賀里さんは僕が子どものころから活動されているんですが、彼女が製作したチョコレートのCMで、チョコの粒が動く様子を見て、『これはどうなっているんだろう』と、子どもだった僕はずっと不思議に思っていて。それで、いろいろ調べていくうちに、真賀里さんにたどり着いて、こういう仕事をする人がいるんだと知ったんです」

――それほど思い入れのあった作品への出演依頼が来たなんて、何か運命的なものを感じますね。

 「本当にありがたかったです。大人になってからDVDを手に入れたんですが、そのころは仕事の分岐点で、いろいろ考えることが多かった時期で。そんなときに『くるみ割り人形』をもう一度見たら、映画の中にサンリオのキャラクターがカメオ出演していることに気づきました。当時、サンリオの辻社長は、映画の完成に5年くらいかけたそうなんですが、サンリオキャラクターへの感謝の思いが感じられたのと、ご自分の信念を貫いて、自らの美意識の元、長い時間がかかっても製作をやり遂げるという姿勢が、ビジネス書のように、僕に何かを教えてくれた気がしたんです。映画が伝えている純粋な愛についても、大人になってから見て、初めて分かりましたし。大人が見ると、より深く物語に入っていけますね」

――大人も十分楽しめますよね。少し怖いところなどは、小さい子どもが見たとき、どう感じると思いますか?

 「僕の記憶から言えば、大人が思っているよりも、子どもは大丈夫だったりするんじゃないかな。暗い映画館を怖がるような2歳以下くらいの子どもじゃなくて、ある程度、自分が見たいという意思のある年齢の子どもだったら、その辺のアンテナはきっちり持っていると思うので、残酷なものや、ちょっと子どもには難しいかなと思うものでも、意外と大丈夫なんですよね。突き刺さる部分は、しっかり突き刺さると思うんですが、それはいいことだと思います」