どんな方針でも、子どもを授かった親にとって、その医師は“神”

久美子 大手の不妊治療クリニックの待合室には患者があふれています。数にしたら1日何百人にもなるでしょう。そうした大量の患者に対応するためには、機械的に皆さんに同じ治療を提供せざるを得ないのかもしれませんし、丁寧に説明をしている時間も取れないのだろうということは分かります。

 ただ、心にも体にもつらい治療ですので、不妊治療の現場の環境をもう少し改善するべきではないかと思います。そういったクリニックに通っていたときに感じた漠然とした疑問や不信感はまだ消えません。

―― つらさ、痛さ、心理的なつらさが、それほどまでとは……。

久美子 想像しにくいでしょうね。頻繁に病院に行くにしても、定期的であれば、仕事を何とか都合して通えます。でも実際には体の状態が第一優先になりますから、不定期にならざるを得ない。予定はほとんど立てられなくなる、といっても過言ではありません。

 よく不妊治療の特集番組などで、取材された人達のコメント一つひとつが、経験者である私には手に取るように分かるようになりました。「ああ、先が見えないってこういうことですよね」と。

 短時間勤務ができる部署に移ったことで、事情を知らない人には「何してるの? 暇そうね」と言われたこともありました。治療していることを話すと「今どき、2~3人に1人は不妊なんでしょう? 深刻ぶっちゃって」と反応されることもあるんです。

 今日はこうしてお話しする機会がありましたが、ここまで話さないと、すべてを伝えるのは難しいことなんですよね。ただ、私には耐えられなかった同じ機械的な治療(顕微授精)をひたすら繰り返すクリニックも、そこで子どもを授かったら、その医師は親にとって、神様なんです。でも冷静になって長い目で考えれば、妊娠さえすればよいということでもありません。安全な不妊治療があってこそです。

哲也 あえてシステム化して、コストは抑えている。経済的に助かる、治療が短時間で終わるなど、効率よく機械的に行うことに価値を見いだす人も多いのでしょう。だからあんなに混雑しているわけだと思いますし……。

久美子 色々な思いをしても、私達には合わない医師でも、誰かにとっては“神”なんです。だから悪口を言うつもりはありません。

哲也 でも、これからも不妊治療をする人は増えていくと思いますので、あえて厳しい一言を申し上げます。システム化して費用を下げる方法もあるのかもしれませんが、それでは最も大切な医療の精度や安全性など、失われてしまうものもあることに気付いてください。

久美子 私達の段階の前にも、先にも、悩んでいる夫婦がたくさんいると思います。「高齢でも出産できる」「卵子は老化するから凍結してしまえばいい」といった断片的な情報が流れ、「有名クリニックに行けば子どもはすぐできるよ。お金はかかるけどね」という風潮もある。もちろん、「そこまでして子どもが欲しいの?」と、治療自体に対する否定的意見もあります。

 それぞれの夫婦がもっと気持ち良く、そして納得できる科学的根拠に基づいた不妊治療を提供できる施設が増えてほしい……。どこで不妊治療しても子どもを持ちたい人は安心して持てるように、そんな世の中になることを願ってやみません。

(ライター/阿部祐子)