失敗に対する分析がなく、顕微授精を繰り返す「出口の見えない状態」に

―― 2院目の専門クリニックには9カ月で通院をやめたんですね? その原因はどこにあったのでしょう?

久美子 2院目ではデータを基に「33歳という年齢を考慮すると、あなた達の妊娠成功率は30%程度でしょう」と言われました。ならば「3~4回の顕微授精で成功するのではないか?」と夫婦の間では話していました。

―― 数字だけ見ると、そう感じても無理はありませんよね。

久美子 ですので「少なくとも5回(の顕微授精)は頑張ろう」と励まし合っていたのですが、経過を見ながら徐々に疑問を感じるようになってきました。というのも、妊娠できなかったときの原因の分析がほとんどなかったからです。普通であれば医療は科学ですから「今回はここが悪かったので、次回はここを改善してみましょう」といった分析ができそうなものですよね。でも、何度質問しても回答は得られませんでした。

 そういうことを何度も経験しました。今振り返ると「もしかすると、私達には妊娠する可能性があまりないことを医師は分かっていたのでは?」とも思われるのです。

―― 詳しい分析もなく、「次また頑張りましょう」と言われるだけだった、と。

久美子 精子の状態を改善する治療もなく、「顕微授精をするには、元気な精子が1匹いれば十分ですから大丈夫です」と繰り返し言われるだけでした。そのころから、私達夫婦は「一体、何を根拠に大丈夫と言っているのだろう」と不信感が強くなりました。

 顕微授精とは、卵巣の中で成熟した卵子を取り出し、胚培養士が顕微鏡をのぞいて、ただ元気に泳いでいる精子1匹を選び、卵子に針を刺してその1匹の精子を送り込み、人工的に受精させる治療です。体外で育て受精した細胞(受精胚という)が分割してうまく成長していけば、授精は成功したということです。その受精胚を女性の体に戻して子宮の中でさらに育てる。私の場合、このプロセスを6回経験しました。

 つまり、私達の場合、体外ではうまく受精しても、私の体の中では育たなかったのです。「ならば私の問題なのかも」と思い詰めるようになってしまいました。針治療をしたり、高額な健康食品を買ったり。預金もどんどん取り崩してしまいました。

 先生に「やっぱり私に問題があるのですか?」と質問しても「そんなことはありません」と返され、「では次はまた月経の3日目に来院をお願いします」と言われるだけでした。

―― 科学的な言及がなかったのですね?

久美子 「何が悪かったの?」「回を重ねればうまくいくの?」といった疑問が重なり、希望を持てず、「いいかげんおかしい」と思うようになりました。

哲也 「医師のほうも行き詰まっているんじゃないかな?」と思われるような雰囲気が出始めていました。

久美子 一方で、「うちでダメなら他に行ってみたらどうでしょう」といった選択肢を示されることもなかった。そこが一番の問題だと感じました。

 例えば「5回トライしてみてダメだと思ったら次の策を講じましょう」といった見通しを立ててほしかったし、治療の途中で私達の状態を科学的根拠に基づいて解説してほしかったんです。

(後編に続く)

(ライター/阿部祐子、撮影/鈴木愛子)