本連載では、これまで、シングルマザーについて2回の記事を通じて実情をお伝えするとともに、政策提言などをしてきました(「ひとり親家庭の悩みは、収入の低さと時間のなさ」「働くシングルマザーのリアル 地方都市で暮らす」)。今回は、シングルファザーの課題を取り上げます。宮城県仙台市在住で、東北の父子家庭支援を行っている、NPO法人・全国父子家庭支援連絡会・村上吉宣(むらかみ よしのぶ)さん。読者と同世代。35歳のシングルファザーで、2人のお子さんを育てています。

ひとり親家庭の「気負いの大きさ」を知ってほしい

治部 共働き家庭とひとり親家庭は、保育園や学童保育などで接点があります。両者が自然に関わっていくために必要な「心構え」があるとすれば、どのようなものでしょうか?

全国父子家庭支援連絡会・村上吉宜さん(写真右)
全国父子家庭支援連絡会・村上吉宜さん(写真右)

村上さん(以下、敬称略) 共働き夫婦もひとり親も、どちらも子育てしながら働く親であることに変わりはありません。一つ大きな違いは、ひとり親は「ひとりで立っている」ということ。だから、ものすごい「気負い」があります。

 シングルになった理由は人それぞれですが、例えば「離婚してはいけない」とか「人に相談なんてしてはいけない」という具合に、世間のルールで自分自身を縛っているひとり親はたくさんいます。

 共働き夫婦なら、どちらか片方が目いっぱい働き、もう片方が家庭を優先するなど、ブレーキとアクセルを二人で組み合わせて調整できます。でも、ひとり親は、常に目いっぱいアクセルを踏んでいる状態です。精神状態がかなり張り詰めている。

 経済面だけでなく、精神面でもこういう違いがあることを、知っておいていただいたうえで、自然に会話してもらえたらいいと思っています。

―― 「気負い」の大きさが違うのですね。

村上 はい。昨年、東京都江東区で父子家庭の父親が、5歳の息子を殴って死なせてしまった事件がありました。これを聞いたとき、私は「人ごとではない」と感じたのです。

 このお父さんは、男手一つで育てているからこそ、育児に手を抜いてはいけないと、気負っていたのではないか。きちんとしなくては、と思い込み過ぎ、子どもの5年後、10年後を考え過ぎて過剰にしつけへと促された結果、オーバーヒートしてしまったのではないか、と思いました。