「不妊」とはWHOの定義によると「避妊をしていないのに12カ月以上妊娠に至らない状態」。人に相談しづらい問題だけに、体験者の生の声が聞きたいという要望が編集部に数多く寄せられています。有名クリニックの宣伝文句である「妊娠率」を選択の目安にしていいのか、人工授精にはどのようなリスクがあるのか? 不妊治療専門の黒田優佳子先生が院長を務める、黒田インターナショナル メディカル リプロダクション(東京都中央区)に通うDUAL世代の患者さんから、これまでの不妊治療の体験について語っていただきます(以下、人名は仮名)。

「不妊治療 初診で顕微授精を勧められた違和感」に引き続きご紹介する一人目は独立系の経営コンサルタントとして活躍する佐々木恵さん(48歳)。夫婦共にキャリアを重ね「むしろ避妊のほうに気を付けていた」20代、30代を経て40代の半ばになっても「生理があれば誰でも簡単に妊娠できると思っていました」。<後編>では、2軒目のクリニックでの人工授精と、1度目のトライで子どもを授かった経緯。そして、「私が高齢で妊娠できたのは偶然かもしれない……心から信頼できる医師との出会いが、“こうのとりの奇跡”を呼んでくれたのでしょう。高齢出産には高いリスクが付きもの。不妊治療に関する正確な知識を得て、リスクも分かったうえで治療法を選択してほしいし、医師はもっと分かりやすい情報を与えるべきだと思います」と語る佐々木さんの本音に迫ります。

人工的な手技を加えれば加えるほど、リスクも高くなることを知ってほしい

画像はイメージです
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DUAL編集部 前回の記事では、45歳で初めて妊娠を望み、“ベルトコンベヤー式の流れ作業”のようだった1軒目のクリニックに見切りをつけて、黒田優佳子先生のクリニックに移られたところまで伺いました。黒田先生からの説明を受けて初めて知ったことはありましたか?

佐々木さん(以下、敬称略) たくさんあります。形態が良好な運動している精子(運動精子)であれば「良好精子」とされていますが、実は運動精子の中にもDNAが損傷している場合があるということ、つまり見た目だけでは質の高い精子の評価はできないということ。また、顕微授精で卵子に穴を開けることが安全かどうかも科学的に証明されているわけではないこと、すなわち、現状の顕微授精にはリスクがあるということを知りました。

 実際、海外では「顕微授精による異常児発生率が自然妊娠よりも高い」という内容の症例報告が多数あることを教えていただきました。英語論文もご紹介いただきました。(*1

 また日本においても、厚生労働省で体外受精児数千人について追跡調査をしていることも学びました。実際は不妊治療の7~8割が顕微授精の適用になっているわけですから、言い換えれば、顕微受精児の追跡調査ということになると思います。

 具体的に言うと、2007~2008年に生まれた健康な子どもの15年間の追跡調査がされています。その調査では、受精卵に人工的な操作を加えれば加えるほど、子どもの体重が増える傾向にあるという結果が出ています(2011年発表)。

 出生時の体重増加の原因については、まだ調査中ですが、遺伝子の働きを調節する仕組みに異常が出た可能性が指摘されています。これは2011年に新聞でも大々的に取り上げられましたので、記憶にある方もいらっしゃるかもしれません。こうした情報や正確な知識は、とても大切だと思います。

黒田先生の解説

 不妊治療を提供するうえで重要な論点は、顕微授精および周辺技術が胎児発育にどのような影響を与えているかということです。その結論を得るためには、基礎研究と共に、多数の臨床症例を解析した疫学調査が必須となります。しかし、この明確な回答が得られるには相当の時間が必要です。

 そこで、「顕微授精と出生時の異常発生率との因果関係が全くないとも言い切れない疑わしき現状」において、今この瞬間にも顕微授精で赤ちゃんが生まれていることを思えば、今やるべきことは「命をつくり出す不妊治療では、疑わしきは避けるべきである」という考え方が、医師である私の臨床基盤にあります。