医師には安易に「頑張ろう」と言ってほしくない

佐々木 私は、最初の不妊治療クリニックでウェルカムでない対応をされたことが、自分自身で不妊治療のリスクに気づいて自発的に調べていくという行動に結び付きました。もし、最初のクリニックで、先生から親身に「大丈夫だよ、頑張ろうよ」と言われていたら、自分で主体的に考えることなく、言われるがままに初回の治療から顕微授精をお願いしていたかもしれません。

 妊娠率の高さをうたい文句にしている不妊治療専門クリニックには、今でも、やはり疑問を感じます。「妊娠したい」という夫婦の強い思いから、「妊娠率につい目が行ってしまう」のも分かります。私もそうでしたから……。

 その結果、高い妊娠率を誇る施設に患者が集まるのも無理はないのも分かります。でも、私のような高齢で妊娠しにくい人を相手に治療すれば、妊娠率は当然下がるでしょう。逆に、若いご夫婦を対象に治療したり、手っ取り早く授精させられる方法を取ったりすれば妊娠率の数字は上がるのではないでしょうか。

黒田先生の解説

 不妊治療において「妊娠率」を正確に数値化することは極めて難しいことを知っておいてください。本来、夫婦ごとの妊娠率は、施設の平均妊娠率とは無関係なのです。なぜならば、不妊の原因は男女共に多岐にわたり、しかも複数の原因が複雑に絡まり合っていますので、同じ治療を行っても、妊娠しやすさも流産しやすさも夫婦ごとに大きく異なるからです。

 つまり、いくら妻側の治療がうまくいっても、精子の状態が悪いままでは、その夫婦の妊娠率は向上しないということです。

佐々木 私の場合はたまたま幸運が重なりました。ですから、「不妊治療の経験があるんですって? 詳しく聞かせて」と知り合いからお願いされてお話しするときは「これは、あくまで反面教師として聞いてほしい」と前置きするようにしています。「46歳でも妊娠、出産できるんだって! じゃあ私も遅くてもいいんだ!」というふうには、決して捉えてほしくないのです。

【参考文献】
1-1. Shi Wu Wen, Arthur Leader, Ruth Rennicks White, Marie-Claude Léveillé, Valerie Wilkie, Jia Zhou, Mark C. Walker, A comprehensive assessment of outcomes in pregnancies conceived by in vitro fertilization/intracytoplasmic sperm injection, European Journal of Obstetrics & Gynecology and Reproductive Biology 150(2) 160-5(2010).
1-2. Michael J. Davies, M.P.H., Ph.D., Vivienne M. Moore, M.P.H., Ph.D., Kristyn J. Willson, B.Sc., Phillipa Van Essen, M.P.H., Kevin Priest, B.Sc., Heather Scott, B.Mgmt., Eric A. Haan, M.B., B.S., and Annabelle Chan, M.B., B.S, D.P.H., Reproductive Technologies and the Risk of Birth Defects, The New England Journal of Medicine, 366;19, May 10, 2012. 1803-1813.
1-3. 東北大学大学院医学系研究科情報遺伝学分野 有馬隆博,岡江寛明,樋浦 仁, 生殖補助医療由来の先天性ゲノムインプリンティング異常症, 日本生殖内分泌学会雑誌(2012)17 : 54-58.

(ライター/阿部祐子)