夫婦で黒田先生のクリニックへ。1時間のカウンセリングで思わず泣いた

―― 佐々木さんはこの後、黒田優佳子先生のクリニックに移られましたね。

佐々木 年齢のこともあって何となく話しづらかったため、不妊治療のことは誰にも明かしていませんでした。でもここは第三者によるアドバイスが必要だろうと思い、知り合いの医師に相談しました。そこで、「世界で唯一、精子側から不妊治療にアプローチしている婦人科の女性医師」として、黒田優佳子先生を紹介していただきました。

―― クリニックを変えることについて、夫婦で相談しましたか?

佐々木 夫も、私が精神的にかなり参っているのを見ていたので、賛成してくれました。ただ夫婦とも、子どもを持てるのか持てないのかについて明確な回答を得ていない状況でしたので、初めのクリニックをやめてすぐ、黒田先生のクリニックを訪れたのです。

―― 子どもを持ちたいと考えてから2カ月目ということですね。

佐々木 はい。黒田先生のクリニックでは完全予約制で、夫婦で一緒に行くことが求められます。その初回のカウンセリングは1時間。完全個室の応接室のような落ち着いた場所で、黒田先生とマンツーマンでお話できます。完全にプライバシーも守られていますので、今まではむしろ避妊に気を付けていたというわが家の事情などについても周囲を気遣うことなく説明できました。

―― カウンセリングの中で、印象に残ったやり取りはありましたか?

佐々木 「他の病気なら、どんなに嫌な思いをしても治ればいい。でも不妊治療は、ただ妊娠すれば、出産すればいい、ということではない。心身共に健康な子どもが生まれ、平均寿命まで元気に生きられることが第一優先です。その重責が不妊治療にはあるのです」といった黒田先生の言葉です。同時に、「顕微授精のリスク」についても海外の症例報告も併せて、詳しく論理的に解説してくださいましたので、とてもよく理解できました。

 黒田先生のクリニックでは「黒田メソッドによる不妊治療」をしてくださいます。どういう治療法かといいますと、DNA損傷のない精子を選別して、さらにDNA損傷がないことを確認し、最終的にはなるべく顕微授精をせずに自然妊娠に近い授精法に導いてくださいます。

 しかも、精液内の細菌、ウイルス、炎症細胞なども取り除くことができる技術もありますので、子宮内感染の心配もありません。さらに、胚培養士ではなく、黒田先生がすべての不妊治療の開発技術を一人ひとりの患者に合った方法で組み立てて提供してくださる。まさにオーダーメードです。

 医療行為ですからリスクがあることももちろん分かります。そのリスクをうやむやにするのではなく、時間をかけて詳しく説明してもらえ、安全対策を可能な限り立ててくださる黒田メソッドの治療プランから、自分達で治療方法を納得して選ぶことができ、とても安心して治療をお任せできました。最終的には、黒田先生から薦められたわが家の治療プランであった「人工授精」を最初にやってみることにしました。

 今となってはよい思い出ですが、初回の1時間のカウンセリングで私は泣きに泣きました。ホッとしたんです。私達は追い詰められた精神状態で、わらをもつかむ思いで救いを求めて頼っていたのですから。黒田先生とならば、お互いに冷静な判断をしながら向き合って頑張れると思いました。それがうれしかった。

黒田先生の解説 

 多くの不妊治療専門クリニックでは、「形態良好で運動している精子(運動精子)であれば、良好な精子である」と認識されていますが、実は運動精子の中にもDNAが損傷している場合があるのです。ですから、顕微授精で無作為に運動精子を1匹選んで卵子に注入して授精すればいい、という短絡的なことではないのです。

 もう少し具体的に説明しましょう。見た目が良好な運動精子でも、機能異常を有している精子(DNA損傷精子のみならず、卵子との接着機能障害を持つ精子や、運動していても代謝異常による運動精子であるものなど)である場合もあります。そのような異常精子が顕微授精で人工的に卵子に注入されて授精させられてしまうと、健康な子どもが生まれない可能性が出てきます。

 また、顕微授精で精子1匹を吸引した細い穿刺(せんし)針で卵子に穴を開けることが、生まれてくる子どもにどのような影響を与えるのかは、まだ科学的に解明されていません。

* 次回に続きます。

(ライター/阿部祐子、撮影/鈴木愛子)