説明もなく勧められた顕微授精

―― 一般的な治療を行っている不妊治療専門クリニックでは、最初は、排卵日に性交のタイミングを指導される「タイミング療法」を行います。それで妊娠しなかった場合に、精子を子宮内に送り込む「人工授精」に進みます。それでも妊娠が難しかった場合に「体外受精」に進み、それでも妊娠しなかったら1匹の精子を卵子に注入して人工的に授精させる「顕微授精」という治療法に進んでいきます。しかし、佐々木さんの場合は、最初のプロセスは飛ばして、いきなり顕微授精を勧められたということなのですね。

佐々木 初診から「顕微授精」の話をされていました。こちらは予備知識もありませんし、そもそも自分の年齢が高いことはさすがに納得していましたので、「もうその治療法しかないんだ」という気持ちになってしまいそうでした。でも卵子に針を刺す写真をテレビでよく目にしていたので、本当にリスクがないのか、とても心配になりました。

 本当は、わが家の事情をもっと話して、治療法について時間をかけて相談したかったんです。でも患者さんが溢れるほど待っている状況で、実際のところは不可能でした。

―― 話したかったこと、とは何でしょう?

佐々木 わが家は私も夫も仕事の都合で、それまで妊娠を望まず、むしろ、あえて子どもをつくらないように気を付けていた夫婦です。その場合、「45歳でも自然な状態で妊娠を試みるのには遅いのか」と。まずはそこを率直に相談してみたかったんです。

―― でも、自分の素朴な疑問を相談できるような雰囲気ではなかったと。

佐々木 はい、その後、随分考えたのですが、私のほうからそのクリニックには早めに見切りをつけました。精神的に参ってしまったのです。それでも約1カ月、合計5回くらいは通いましたが。

―― その間の治療はどんなものだったのですか?

佐々木 尿検査、血液検査、超音波画像で母胎の状態を見てもらいました。卵子を採取する手前まで行きました。

―― そのクリニックについて、ここが決定的にダメだと思ったところは、どこでしょう?

佐々木 そのクリニックに通い始めてから、私も夫も、かなりの数の本や海外の英語論文を読みました。調べていくと、「顕微授精には相応のリスクが伴う」ことが分かってきました。その顕微授精のリスクについて他の選択肢を全く示されず、詳しいカウンセリングもない中で、「あなたにはもう顕微授精しかない」という流れに乗せられそうになってしまったところに問題を感じました。

 リスクをよく知ったうえで、自分で取った選択なら納得もできますが、半強制的に「選ばされた結果」であれば、自分の選択を一生後悔してしまうことになったでしょう。