犯罪にあわないためにはどんなことを知っておけばいいのか。それを小学生に教えるために、2014年9月19日、川口市立上青木小学校で「地域安全マップをつくろう」という授業が開かれました。参加したのは4年生。朝9時から始まった授業では、立正大学の小宮信夫教授が危ない場所の見つけ方について説明しました(第1回「『怪しい人についていくな』では、子どもは守れない」参照)。
 体育館での授業の後は、いよいよ実践です。4年生は、クラスごとに4つの班に分かれ、学校周辺を歩きながら安全マップを作るための情報収集をしました。フィールドワークには、小宮さんも同行し、子どもたちと一緒に危険な場所を探していきます。この作業の本当の目的とは?

 9月19日の3時間目から、4年生は体育館から出て、フィールドワークに出ました。各クラスとも4つの班、全16班に分かれました。この後は、班ごとの活動になります。

 班のメンバーは、それぞれ班長や副班長のほか、地図係、写真係、インタビュー係という役割を持っています。
 地図係が担当するのは、フィールドワークで発見した場所を、持ってきた地図に「危険な場所」「安全な場所」「写真を撮った場所」というように書き込む仕事。安全マップ作りの要になります。
 写真係は、危険な場所や安全な場所を写真に撮って記録し、その場所を地図係に伝えます。この写真は、安全マップを作成する際、各ポイントに貼って、具体的にどんな場所だったのかを説明するのに使います。
 インタビュー係は、学校の近所にいる人から話を聞き、その情報を「きけんな場所」と「安全な場所」を見つけるヒントにします。いわゆる「聞き込み調査」ですね。これもまた、安全マップの精度を上げるために必要な情報ではありますが、本当の狙いは他にもありました。その狙いについては、後ほど説明します。

出かける前に、持ち物を点検。いつでもすぐにメモできるように、バインダーにしおりを挟み、首からぶら下げました
出かける前に、持ち物を点検。いつでもすぐにメモできるように、バインダーにしおりを挟み、首からぶら下げました

いつも通っている道を、2つのキーワードで検証すると…

 さて、いよいよフィールドワークのスタートです。班ごとに分かれ、学校の運動場から出て、自分の班が担当する地区の見回りに出かけます。各班には、大人の指導員が数名加わり、安全に気を配りながら歩きます。小宮さんや、小宮さんの大学の学生さんも、指導員として参加しました。

 フィールドワークでは、歩きながら「危ない」と思う場所を見つけたら、お互いに声を出して教え合うというルールになっています。しかし、見分けるコツがつかめないのか、なかなか「危ない」という声は上がりません。そのまましばらく歩くと、左側に川があり、右側に駐車場がある場所に出ました。ここで小宮さんが立ち止まり、子ども達に尋ねました。

小宮 さて、この道はどう? 安全? それとも危険?

左に川、右に駐車場がある道。さて、ここは安全でしょうか? 危険でしょうか?
左に川、右に駐車場がある道。さて、ここは安全でしょうか? 危険でしょうか?

子ども達 「人通りが少ないから、危険!」

小宮 あれ、人通りの多い少ないは関係ないのではなかった?前回参照) 2つのキーワードを思い出して!

ゴミは危険を表すシグナル

子ども達 「あ、そっか。入りやすいかどうかは…ガードレールが無いから、危険!」

小宮 なるほど、ガードレールが無いと「入りやすい」よね。そうすると、車で近づいて、すぐに誘拐できそうだね。じゃ、もう一つのキーワードを考えてみよう。ここは、「見えにくい」? 周りを見て、考えてみて。この道を、誰かが見ている感じがする?

子ども達 「川の向こうにある家は、窓がこちらを向いているから、あの家の人は見てくれるかもしれない」

小宮 そうだね。窓のむきはこちらを向いているね。でも、川の向こうだから少し距離があるよ。離れていると、見えにくいよね。

子ども達 「あ! あそこにゴミが落ちているよ! ゴミが落ちていたら、あまり人が見ていないってことだよ

道に、ペットボトルのゴミが落ちていた。ということは…?
道に、ペットボトルのゴミが落ちていた。ということは…?

小宮 そうだね。ゴミは危険を表すシグナルだったね。てことは、ここは危険? それとも安全?

子ども達 「ガードレールが無いから、入りやすい!」「川があるから、あまり見てもらえない!」「ゴミがあるから、見てもらえない!」「つまり、ここは危険!」

小宮 「危険な場所」が見つかったね。では、地図係は「危ない場所」と書いておこう。

公園は、見知らぬ大人と仲良くなりやすい場所

 次に到着したのは、上青木公園。ここは、上青木小学校の子ども達がよく遊んでいる公園です。おなじみのこの公園は、安全な場所なのでしょうか、それとも危険な場所なのでしょうか。

小宮 さて、公園に着いたね。中に入る前に、まず前に立って見てみよう。この公園、入りやすいかな? 入りにくいかな?

公園の前。入り口の前に立って、公園を眺めてみる。周りに柵があるから、この公園は入りにくい?
公園の前。入り口の前に立って、公園を眺めてみる。周りに柵があるから、この公園は入りにくい?

子ども達 「柵があるから、入りにくい!」「でも、周りに木が生えているから、道から中は見えにくい!」

小宮 そうすると、「入りにくい」けど「見えにくい」場所ってことになるね。安全な場所なのか、危険な場所なのか、これだけだと分からないね。では、中に入ってみよう。

 公園の中に入って、周囲をぐるりと見渡してみました。周りには、いろんな建物が並んでいます。今度は、公園の中から見たときに、周囲からの目があるかどうかを検証してみます。

小宮 周りの家を、よく見てみよう。君達が公園で遊んでいる間、周りから大人が見ていてくれそうかな。

公園の中から、周りの風景を見渡してみる。家は多いけど、あまり人の気配はない
公園の中から、周りの風景を見渡してみる。家は多いけど、あまり人の気配はない

子ども達 「工場は、あんまり人がいないみたい」「倉庫もあるけど、なかなか人が出てこない」「近くにマンションはあるけど、窓が少ないし、人が見ていない感じがする」

小宮 つまり、建物は多いけど、公園から見える窓があまりないってことかな? では、この公園は危険なのかな? それとも安全なのかな?

子ども達 「…うーん、どっちだろう。よく分からないなあ…」

小宮 この公園が安全なのか、危険なのか。この問題に、正解はありません。大切なのは、今やっているように、みんなが自分の目で見て判断することなんだよ。危ないかどうか、すぐに判断できなくても、景色をよく見る癖をつけよう。特に公園は、大人と子どもが仲良くなりやすい場所なんだ。仲良くなると、その人が危ない人でも、みんなすぐに信用しちゃうでしょ。だから、公園で遊ぶときはよく気を付けたほうがいいんだよ。

子ども達 「大丈夫だよ。ぼくはこの公園でよく遊んでいるけど、時々知らない大人に会うよ。でも、危ないと思ったらすぐに自転車で逃げるから、平気だよ

小宮 そう? 本当にそうかな?