家づくりの過程ではデベロッパーとのせめぎ合いも

 第8回目となる今回のデザインコンペには、588点の応募があったという。それらの多くは家族のつながりを重視し、お互いの気配を感じたり、集まって過ごせる空間をめざしたものだった。

 「そのなかでも小野氏の作品は、空間を斜めの線で構成するという点に強いインパクトが感じられました」と話すのは、三井不動産レジデンシャル市場開発部商品企画グループの小井孝和氏だ。室内の仕切りを極力なくし、中央に家族が集まる共有スペースを大胆に広くレイアウトした点も、従来にない斬新な発想といえるだろう。

 作品を実際の住戸に仕上げるにあたっては、建築家とデベロッパーとの間で葛藤もあったようだ。例えば寝室スペースは当初の作品では間仕切りがなく、広いワンルームを自由に使うプランだったが、家族構成に変化が多いファミリー層がよりフレキシブルに使えるよう完成した住戸では3つに仕切られている。

寝室の隣は子ども部屋にも使えるよう3つに仕切れるようになっている
寝室の隣は子ども部屋にも使えるよう3つに仕切れるようになっている

 当初のプランどおり実現した部分もある。「われわれが最も違和感を感じたのは、トイレのドアがリビングに面していることです。社内で設計のイロハを学ぶときに、音への配慮から廊下に設置することにしているからです」(小井氏)

 たしかに住宅の間取りとしては珍しいが、トイレの位置が玄関に近い場所なので、さほど気にならないだろう。「子どもが小さいうちはトイレの世話に手間がかかるので、リビングに近いと便利」という女性の声も聞かれた。