正社員の「安定」「収入」を求めて転職を考える

 顧客との会話に加え、入社後1年で、少しずつ計60円時給がアップしたことや、「疲れてない?」「冷たいものでも飲んで」など社長や社長の家族の気配りの言葉などが、大きな励みとなっていた。差し入れや「焼き損じ」のパンを持たせてくれることなども、頑張る気持ちを後押しする。

「仕事にこんな楽しみがあったんだ」。小林さんは、こだわりパン屋さんに入社して、本当に良かったと思っていた。

「半面、食の世界にもっともっと入り込みたいという気持ちが、さらに強くなっていきました。同時に、正社員としての安定感・安心感を得たいとも思うようになっていました。というのは、実は夫が、それまで勤めていた大手商社を辞めると言い出して。『どうしてもこの仕事がしたい』と言って、トラックのドライバーに転職をしてしまったんです。私は夫のその気持ちを大事にしたいと思いましたが、とはいえ当時、まだ子どもは小学生です。なのに収入は激減し、不安定になりました。その分、私もしっかり仕事をしたいと考えるようになっていました」

 「食」に関する仕事で、かつ正社員募集に絞って、求人を探した。しかし、正社員での募集は少なく、ようやく見つけて応募しても「不採用」。「46歳という年齢では、もうダメなのかな」と思い始めた矢先に、『保育園開設 正社員募集 職種・調理師』という、今の職場の求人広告を見つけて、応募した。

 「年齢できっと落とされるという予想に反して、書類選考は通過。その後筆記試験と面接があり、会場に入ると、まわりは自分より一回り以上若い、20代と思われる女性ばかりでした。一瞬にして、これはダメだって、思いました。何年も着ていなかったスーツを引っ張り出し、リクルートスタイルをなんとか作っていったのですが、『結果は見えている』と思ったんです」

 ところが、である。届いた封書は「合格通知」。

 「やった!」「受かった!」 うれしい思いがほとばしり出た。