「理由がわからず、どうしてかとたずねたら、その新人パートが辞める際、『小林さんも社長の悪口を言っている』と告げ口をしたそうなんです。それを社長は、真に受けたようでした。これはショックでしたね。1年半、お店のために一所懸命がんばってきた私より、新人の言うことを信じるのか、って思って」

 自分は何もしていない。なのに…という思いが募り、落ち込んだ。

「食」に関する仕事内容にこだわって、パートで再就職先を探す

「とはいえ、子どもの教育費のこともあり、いつまでも何もしないではいられません。したがって仕事は一刻も早く見つけたかったのですが、一方で『再就職先は飲食、できればケーキかパン関係で接客を伴う仕事』と決めていました」

 あくまで「仕事内容」にこだわって、新聞折り込みの求人広告を隅々まで読み、「求人」の張り紙を探して、町を歩いた。そんななかで見つけたのが、こだわりの手作りパン屋さんの「販売スタッフ募集」の張り紙だ。

「あ!って思いました。そのまま吸い込まれるように、店に入っていったんです。お店の方に『あの張り紙を見たのですが』と声をかけ、その場で仕事の話を聞いて、迷わず応募しました」

 願っていたとおりの職場。ところが、入社してからが大変だった。以前働いていた洋菓子店に比べて商品アイテムが桁違いに多いのだ。パンは、シーズン商品なども含めると、常時100種類近く並んでいる。しかも「こだわりの店」だけに、お客の質問も多様だった。

「パンの名前と材料と価格とを、すべて覚えるのは当然です。でも、それだけでは足りません。こだわりの店だけに、お客さまは、アレルギー対応の商品や製法などまで、あらゆることを聞いてきます。これは到底覚えられないと思って、焦りました」

大変さを喜びに。出勤日の気持ちは「さあ、行くぞ!」

 焦るより、覚えるための地道な努力。こう思った小林さんは勤務中、商品一覧表をポケットにしのばせて、実際の商品と照らし合わせて暗記した。帰宅後はその表をもとに、子どもにクイズ形式で質問してもらって、一つひとつ確認した。

 「商品知識が頭に入り、商品に愛着がわくほど、接客はますます楽しくなりました。住宅街ですので、顔なじみのお客さまも多く、そのお客さまがまた、仕事の楽しみを大きくしてくださる感じでした」

 例えば、毎回、同じ曜日に同じものを買われるお客には、その商品を取り置いておく。おいしい食べ方を研究し、提案もする。取り置きのお客さまの喜ぶ笑顔や、提案したお客さまが後日「本当においしかったわ」など報告してくれることも多く、二重三重の喜びを味わえた。

 週に4日ある出勤日の起床時刻は、朝5時45分である。その後夫、2人の子ども、義父母と自分の6人分の食事を整えて、食べさせる。自分も朝食をかきこみ、掃除・洗濯を済ませると、あっという間に8時を過ぎる。後片付けをし、自分も身支度を整えて、8時45分には、職場に向かって自転車を走らせる。

「仕事は立ちっぱなしですが、帰宅後も、食事の後片付けが終わる夜の8時までは座りません。夕食を食べるとき以外、一度座ってしまうと、立ち上がれなくなってしまうからです」

 それでも出勤日は「さあ、行くぞ!」という気がわいてくる。

(写真はイメージです)
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