洋菓子店での具体的な仕事は、店頭での接客やケーキ作りの下準備など。最初は不安でいっぱいだったが、一方で日々の仕事は「ものすごく好き」だった。

「夢中で取り組むうちに、最初の不安はいつしかすっかり消えていました。お店は、シェフで店主の社長とその奥さんが経営していて、従業員はパートの私だけでした。それもあってどんどん仕事を任せてくれたんです」

 例えばシュークリームの皮づくり。売れ行きは日々違い、そのスピードと焼き上がりに必要な時間から、「作り過ぎにならず、品切れしない」タイミングでオーブンに入れ、焼き始める必要がある。こんな繊細な、難しい「読み」の必要な時間管理も、小林さんは任された。

「時間を見誤って欠品させたり、多く余らせてもいけません。そんな売上に直結する管理をすることに、プレッシャーもありました。一方で、クリスマスなど季節に合わせたお店の飾りつけやディスプレイ、ラッピングのデザインや、箱や包装紙、材料なども、私に決めさせてもらえるようになったんです。すごく楽しく、やりがいもありました」

新人パートの告げ口で、理不尽な退職に追い込まれる

 小林さんは「ずっとここで働きたい」と思っていた。「お給料はそこそこでも、私生活に役立つ何かを覚えられる仕事がいい」と思っており、ディスプレイまでやらせてくれるパート先の洋菓子店は、うってつけの職場だったのだ。

 ところがである。パートは小林さん一人だったその洋菓子店に、ある日、新人パートが入社してきた。パート勤務ではあるが、製菓学校を出た女性で、将来は独立という明確な意識を持った人である。

 「彼女が入ってきて、お店の雰囲気が一気に悪くなりました。個人経営の洋菓子店なのに、社長にずけずけと意見するからです。いつしか、社長と彼女は対立するような格好になりましたが、私と彼女は同じパート。小さな職場で彼女を無視することもできません。仕方なく彼女の話を、聞くだけは聞いていました」

 その後、新人パートは辞めていった。ところが社長は小林さんにまで退職を迫ったのだ。