――NOBUさん、純子さんは本当に仲のいい親子ですが、以前はなかなか会う時間がなかったかと思います。どのように接してこられたのですか?

松久: 僕は仕事が忙しくてあまり会えない時期も多くありましたし、娘は18歳から親元を離れて日本の大学に行きましたが、女房は子ども達と頻繁に連絡を取り合っていました。女房はいつも「自分達の子どもだから、信じてあげようよ」と言っていました。そして、「親と子」ではなく、「一人の大人」として話すように意識していました。

純子: そうして子ども扱いされることなく育ってきたので、私も4歳の娘には、一人の人間として対応するようにしています。

 「○○ちゃん~♪」というような話し方はせず、娘が泣いていたら、娘が落ち着いてから「なぜ泣いているのか」を論理的に話すように促します。もし娘が怒って部屋に走っていってしまっても、追いかけることはしません。大人と同じような扱いですね。

松久: まあ、その場に僕がいたら、「どうしたの~? いいんだよ、おいで~」なんていうんだけどね(笑)。

純子: そうそう、おじいちゃんですから。

相手を追い込めないのは子育てでもビジネスでも同じ

松久: でも、僕が甘やかしているわけではないんです。親からガツンと怒られると、子どもには対抗心が湧きますよね。そんなときに、「よしよし」と賛同してくれる人がいると、「あれ、待てよ…自分は悪いことしたのかな」と考えるようになる。

純子: 私たち夫婦も同じです。どちらかが娘を叱っているときは、もう一人が娘をフォローするようにします。そういうクッションがなく、2人からガツンと叱られても辛いだけだと思うので。

松久: 昔、動物園で見たことがあるんですが、ライオンの野生の勘を取り戻すために、生きたウサギを檻に入れることがあるそうなんです。ウサギがコーナーに追いつめられると、最後はライオンに立ち向かっていくんですよね。「もうダメだ!」と思ったら、怖いものがなくなって捨て身になる。

 これは、人間でも同じだと思います。失敗した人を、コーナーにがんがん追い込んでいったらいけない。昔、僕はスタッフに「こんなのダメだ!」と怒鳴りつけたこともありましたが、今はやりません。個人攻撃はせずに、「僕だったらこうするよ」と冷静にアドバイスをするようにしています。子育てでもビジネスでも、相手を追い込まずに尊重するということは、本当に大切なことだと思うのです。

松久信幸さん
レストランオーナーシェフ。1949年埼玉県で材木商の三男として生まれ、父を7歳のときに交通事故で亡くす。14歳のときに訪れたすし店で、その雰囲気とエネルギーに魅了され、すし職人になると心に決める。海外へ移り住み、ロサンゼルスに店を構えたとき、和をベースに、南米や欧米のエッセンスを取り入れたNOBUスタイルの料理が人気を呼び、それ以降はニューヨークやイタリアなど世界中で次々と店を成功に導く。2013年4月にはアメリカのラスベガスに「NOBU Hotel」をオープン。現在、5大陸に35店舗を構え、NOBUスタイルの和食を世界の人々に味わってもらおうと各国を飛び回る。松久さんの長女、松久純子さんは「NOBU TOKYO」と食器やNOBUのロゴ商品を扱う「MATSUHISA JAPAN」 代表。4歳児の母であり、共働き家庭でもある。

(文/西山美紀 撮影/小野さやか)

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松久信幸・著/ダイヤモンド社

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