性的虐待は「魂の殺人」 高等裁判所は被害者の損害賠償請求権を認めた

 札幌高等裁判所は、釧路地方裁判所とは異なる判断を下しました。9月25日に被害者の請求の大半を受け入れ、加害者に治療費919万余円、慰謝料2000万円他の損害賠償を言い渡しました。地裁と異なるのは、除斥期間の発生を、性的虐待発生時ではなく、後年、うつ病が発症したときから計算したこと。そう考えれば、被害者には今も損害賠償請求権がある、と解釈したのです。

 「治療費は請求額に対してほぼ満額、慰謝料は請求額より低いものの、被害者が死亡した場合の慰謝料に近い額を勝ち取ることができました。これは、性的虐待は『魂の殺人』である、という私達の主張を裁判官が受け入れてくれたことの表れ、と評価しています」と、被害者側弁護団の寺町東子(てらまち・とうこ)弁護士は言います。

 加害者男性は札幌高裁の判決を不服として最高裁判所に上告しました。最高裁判所は、果たして「魂の殺人」という主張を受け入れるのか。それとも法律をしゃくし定規に適用して被害者の権利をないがしろにするのか。読者の皆さんにも、最高裁判決や関連報道を注視していただきたいと思います。

 裁判に加えて、被害者とその弁護団が要望していることがあります。内閣総理大臣、厚生労働大臣、法務大臣に宛てて作成された「性的虐待に関する時効制度の改正及び被害者救済制度の整備に関する要望書 (案) 」が私の手元にあります。後半は、この内容をご紹介しながら、私達働く親ができることについて、考えます。

 要望書には2つのことが盛り込まれています。

1. 幼少期、未成年時に性的虐待(児童福祉法違反、児童買春、児童ポルノに関わる行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反を含む)を受けた被害者に対する刑事事件の公訴時効及び民法724条の時効・除斥期間の起算点を成人時(20才)まで停止する趣旨の立法化をはかること。

2. 大人を含む性暴力被害に対するいわゆる「ワンストップセンター」を国として予算化し、全国各地に整備すること。ここでいうワンストップセンターとは、性暴力の被害に遭った被害者からの相談への対応、刑事事件等の証拠保全、捜査の支援、診療・治療(医療費の無償化を含む)、法律相談への対応、損害賠償等の法的手続きの支援を行う施設を指す。そして、特に子どもが性的虐待を受けた場合の相談や対応について、現行の児童相談所とワンストップセンターとの連携を強化する仕組みをつくること。