2014年10月、日本総合研究所(東京都品川区)を会場に、『投資家は企業の女性活躍支援を前進させられるか』という勉強会が開催されました。今回は、日本総合研究所のESGアナリストであり、経済産業省・東京証券取引所が実施する「なでしこ銘柄」の選定にも携わっている小島明子さんが、投資によって女性活躍を推進できる可能性とその課題について、さらに、推進するための提言などを発表。その様子をダイジェストでお届けします。

 日本総合研究所でESGアナリストをしております小島明子です。

 世界で主流になっている投資手法の一つとして、「ESG投資」というものがあります。

 ESG投資とは、株式投資を行う際に財務の観点だけでなく、環境(E)や社会(S)、ガバナンス(G)に対する配慮がきちんとできているかを判断して、投資決定の要素に加えるという投資手法です。

 私は、ESG投資を行っている運用機関に対して、企業のESG情報を収集し、評価し、情報を提供させていただく仕事をしています。2012年からは、経済産業省と東京証券取引所が行っている「なでしこ銘柄」の選定に携わっています。

 本日の勉強会のタイトルは、「投資家は企業の女性活躍支援を前進させられるか」ですが、なぜ投資家が企業の女性活躍支援を前進させる力を持っているのか、最初にご説明します。

日本のGDPの半分弱に当たるお金が株式で運用されている

 個人が保有する金融資産は、およそ1,645兆円と言われています。国内の上位3つの年金基金が運用している資産は、約156兆円です。個人および国内の上位3つの年金基金の資金のうち、債券や現金・預金等を除き、主に株式で運用されている資産は、約201兆円です。日本のGDPのおよそ半分弱の数字に当たりますので、この数字がいかに大きいかがお分かりになるかと思います。

 投資家の株式運用資産の大きさから、投資家が株式投資を行う際にどのような視点で企業に投資しているのか、企業側も注視しています。

 投資家側の株式投資の視点は企業に対する大きなプレッシャーになりますので、投資家の投資行動には、企業の女性活躍支援や環境といった幅広い課題の解決に貢献する可能性があるといえるのではないでしょうか。

なでしこ銘柄をきっかけに女性活躍支援を底上げ

 ところが、環境、社会、ガバナンスに配慮している企業に対して投資をするというESG投資は、国内ではそれほど広がっていません。そのような状況で、株式への投資行動を通じて企業の女性活躍支援を前進させるためにどのような課題があるのか、お話しさせていただきます。

 現在、政府の女性の活躍推進に向けた支援策には、大きく3本の柱があります。

(1)女性の活躍促進や仕事と子育て等の両立支援に取り組む企業に対するインセンティブ付与等
(2)女性のライフステージに対応した活躍支援
(3)男女が共に仕事と子育て・生活を両立できる環境の整備

 このうちの1つ目の「女性の活躍促進や仕事と子育て等の両立支援に取り組む企業に対するインセンティブ付与等」のなかに、企業における好事例表彰の取り組みとして、経済産業省によるなでしこ銘柄が掲げられています。なでしこ銘柄を選定するために、経済産業省は企業に対して女性役員や管理職などの登用の拡大や情報開示の働きかけを行っています。

 最近、「なでしこ銘柄に選ばれたい」という企業が増えていると個人的に感じていますが、なでしこ銘柄に選ばれるというインセンティブによって企業が女性社員活躍の取り組みを推進したり、情報を開示したりするという動きを作っていきます。女性の活躍支援に関する企業側の情報開示が進むと、その結果として投資家側が関心を持ち、かつ企業の株式を購入することにもつながると考えられます。

 実際に投資家が株式を購入するようになれば、「株をもっと買ってもらいたい」「長期で保有してほしい」と思う企業側は「もっと女性活躍支援に取り組もう」「女性の活躍支援に関する自社の情報開示を進めていこう」という動きになり、投資家と企業の間で好循環が生まれると考えられます。

 なでしこ銘柄は株式市場を通じて、女性活躍支援に取り組む企業と投資家を結び付けることで、企業全体の女性活躍の底上げをしていくことにつながると思います。