また、教師の体罰を恐れての自殺もあったとか。なるほど。教師が殴ったり蹴ったりして児童を死に至らしめる事件も頻繁に起きていたようです。戦前期の子どもの自殺は、こうした理由が大きかったと言えるでしょう。

 1930年代の後半になると自殺率が急落しますが、戦争が始まったことで、正確な自殺統計が取れなくなったのかも知れません。しかし、別の説もあります。フランスの社会学者、エミール・デュルケムは、名著『自殺論』において「自殺率は社会の統合の度合いに比例する」と述べています。国民が一体となって共通の敵と戦う戦争期は、人々の連帯が非常に強くなり、このことが子どもの自殺を減少せしめたのではないでしょうか。人間は社会的動物であり、他者とつながっていることに安心感を抱く生き物です。

高度成長期には自殺率が下落、90年代から上昇傾向に

 さて1945(昭和20)年に戦争が終わるや、子どもの自殺率は再びうなぎ登りに上昇し、1955(昭和30)年には15.6とピークに達します。映画などで美化されることも多い時代ですが、子どもにとっては最も「生きづらい」時代だったようです。

 はて、どういう自殺が多かったのか。当時の自殺統計を見ると、10代の自殺原因のトップは「厭世(えんせい)」です。世の中が厭(いや)になったということです。戦前と戦後という新旧の価値観が入り混じっていたころですが、両者に引き裂かれて苦悩する青少年も多かったそうな。また、青年男女の無理心中も多発していました。相思相愛にもかかわらず、旧来の「イエ」の価値観から交際や結婚を反対されての心中…。これなども、時代の過渡期にあった当時の悲劇と言えるでしょう。

 その後、高度経済成長により社会が安定するのに伴い、子どもの自殺率は下がってきます。なお1986(昭和61)年がポコっと突き出ていますが、私と同世代の70年代生まれの人なら事情はご存じでしょう。この年の4月に某女性アイドルが飛び降り自殺したのですが、それを悲しんだファンの後追い自殺が頻発したのでした。いわゆる「群発自殺」ですが、自我が未熟な子どもの場合、こうした模倣に傾きやすくなる弱さを持っています。一つの教訓として特記しておくべき事件です。

 あと一つのエポックは、1990年代から現在までの時期です。90年代以降、子どもの自殺率は上昇に転じています。「失われた20年」は、子どもの「生」にも影を落としていることが知られます。

主な原因は「学業不振」や「親子関係」「入試の悩み」

 近年の子どもの自殺は、どういう理由によるものなのでしょう。2011〜13年の自殺原因の内訳を調べてみました。