子どもは知らないふりをして大人のことをじっと見ている

 実はある日、うちに来たセールスマンと話しているうちに、彼が「大村先生じゃない?」と言ってきたことがある。大村は私の旧姓。そうよって言ったら「みどり保育園にいたケンジです」と言うの。「え、ケンちゃん?」ってビックリした。卒園して20年くらい経っていたから。

 彼は「名前が変わったということは、先生、結婚したの?」って聞いてくる。そうよと答えたら「よかったね」だって(笑)。保育園のとき、先生は結婚しないと思っていたそうです。もらい手がないと思っていたのかしらね。

──保育園での教え子が、当時そんなことを考えていたんですね(笑)。

 決してませた子じゃなかった。本当に子どもらしい子どもだった。でも、どんなにのんびりした子でもちゃんと色々なことを考え、見ている。

 そのとき、こんな話もしてくれました。みどり保育園には小さな物置があって、いたずらをした子を「1人でよく考えなさい」と入れることがありました。そのとき、どの子も一応「嫌だ嫌だ」と言うのだけれど、「実は僕はあそこに入るのが大好きだったんだ」と白状したのです。

「物置の壁にはふしあながあって友達がいるホールが見えたし、運動会のときに使う道具や合奏のときに使う楽器が全部しまってあったから、あそこに入れられると面白かった。でも、先生に悪いから、いつも嫌だ嫌だと言っていたんだ」

 子どもって、知らないふりをしていても、興味津々で自分のまわりをじーっと見ているのよ。それは男の子も女の子も同じ。

(取材・文/日経DUAL編集部 小田舞子、大谷真幸 写真/鈴木愛子)