医療分野でも規制改革を通じて、ワーママの助けになりたい

弁護士の林いづみさん
弁護士の林いづみさん

 保育園がなければどうにもならなかったのは、林さんも同じだ。林さんは早稲田大学を卒業後、検察官を経て弁護士になった。米国の弁護士事務所に研修に出た時は、同じ弁護士の夫がついてきてくれた。米国から戻り、3歳と4歳の娘を保育園に預けようと思ったら、当時住んでいた江戸川区で空きがないと言われた。「そんなことはまったく想定していなかったので、途方に暮れた」(林さん)が、とにかく動いてみようと公園の砂場で園児を遊ばせる保育士に直訴した。

 「困っているんです。なんとかなりませんか」。その保育園では1人分の空きしかなかったが、なんとか2人の娘をねじ込んだ。
 弁護士として薬害訴訟を多く手掛ける林さんが女性視線で進めるのは、医療分野の規制改革だ。例えば、病院などで処方される薬品はインターネットで買うことができない。本人が薬局まで足を運ぶ必要がある。厚労省の言い分は「処方箋薬の販売には五感が必須だから対面販売が原則」。

 五感とは、「見る、聞く、においをかぐ、触る、なめる」の5つを指す。見ることと聞くことならネットでも可能だ、薬を販売するのになぜ、なめたり、においをかいだりする必要があるのか。林さんには理解ができない。
 熱を出した娘のために母が、年老いた母のために娘が、代わりに薬を買いにいくことがどうしてだめなのか。実情に合わない規制は改革すべきと林さんは考える。

落とし所を常に意識する男性たちの予定調和に喝!

 翁さん、林さんは「規制改革に女性の視線は不可欠」と断言する。

 政府の会議などで男性メンバーは落とし所を常に意識し、予定調和的な議論になりがちだ。一方、女性メンバーは生活者の感覚から「それって、ちょっと変じゃない?」と素朴な疑問をぶつける。子育てから介護まで、女性は自ら関わることが多い。だからこそ困っている人の現実がわかる。
 自由民主党の政務調査会長を務める稲田朋美さんは「政府などの会議で女性メンバーが増えると、間違いなく議論が活性化する」と語る。外国人が少ない日本では、性差こそがダイバーシティー(多様化)の第一歩になる。


 予定調和の中から改革は生まれない。違う視点でものを考える人が増えて、初めて改革は進む。企業でも女性管理職や役員を増やす方針を掲げる例が増えているが、肝心なのはこうした女性たちの声に、組織として耳を傾けることだ。これからの日本経済を活性化するカギは、働く女性の主張の中にあるかもしれない。

(日本経済新聞編集委員 鈴木亮)